shaitan's blog

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序章-1【人類の進化】

先史時代

人類の祖先が出現してから、文字を発明し自らの歴史を記録に残すようになるまでの、…[略]…時代を先史時代 prehistoric age という。

p. 7

レヴィ=ストロースは「世界は人間なしに始まったし、人間なしに終わるだろう」*1と言っているが、『詳説世界史研究』は人間から始まる。多くの教科書もそうであるが、実教出版の『世界史B』はなんとビッグバンから始まっている*2。授業でどのように扱われているかは分からないがびっくりする。
「十九世紀の事実崇拝は、文書崇拝によって完成され弁明されておりました。」*3とあるように、歴史学において文字史料が重要視されていた(そもそも先史時代を射程に入れていなかった?)ことと、文字記録の有無による時代区分をすることには何か関係がありそうな気もするがよく分からない。調べてみたら面白いのかもしれないなあ。と思ってたら東京書籍の教科書にはっきり「歴史学はそもそも文字による記録にたよる学問である…[略]…このため、文字による記録のない時代は先史時代とよばれ、歴史時代と区別される。」*4と書いてあった。
なお、文字史料の他に史料類型としては画像史料や「聴き取り調査で得られる音声(オーラル)資料や、博物館が所蔵する現物資料(物質資料、考古資料とも)」*5がある。ただし、「史料の分類はあくまで便宜的なものにすぎない。」*6

人類の進化

人類はおおむね猿人・原人・旧人・新人の順をたどって進化した。

p. 7

「人類進化研究の初期には、この4段階[引用者注:猿人、原人、旧人、新人]の順に人類は出現して衰退し、入れ替わって進化したと考えられていたが、発見される化石人骨が増えるにしたがい、明瞭な区別は難しくなり、科学的な根拠に乏しくなった。とはいえ、人類進化を大きく俯瞰して、進化の特徴を把握するには便利な概念」*7らしい。ただ、例えば『サピエンス物語』*8の章立ては「第1章 チンパンジーから分岐した人類の祖先、第2章 最初に登場した猿人、第3章 アウストラロピテクス属 (華奢型猿人)、第4章 パラントロプス属 (頑丈型猿人)、第5章 ホモ属 ― 人類の起源 ―、第6章 ホモ・サピエンス」となっていたが、こちらの方がむしろ分かりやすいような気がした。まあ、化石人骨の分類は研究者によっていろいろ主張があってややこしいし、研究が進めば色々と変わるだろうからあまり細かく追っても仕方ないのだろう。事実、

現在確認される最古の化石人類は、700万年前のサヘラントロプス…[略]…ついで古い化石人類は、440万前のラミダス猿人…[略]…である。

p. 7

とあるが、ラミダス猿人より古い化石人類として600万年前のオロリン*9などが知られており、既に古くなってしまっている。
また、「人類の進化と石器の使用」という図中「700万年前」の下に「アウストラロピテクス」と書いてあり(図1左)、教科書である『詳説世界史 改訂版』*10もデザイン違い(もしかしてこれがカラーユニバーサルデザインってやつか?)で内容は同じ(図1中)。教科書準拠の図表『山川 詳説世界史図録(第3版)』*11ではちゃんと400万年前になっており(図1右)、横幅の制約から妙なことになってしまったのではないかと推察される。

図1:アウストラロピテクスの年代。左から順に『詳説世界史研究』、『詳説世界史 改訂版』、『山川 詳説世界史図録(第3版)』。
なお、人類進化については Human Evolution Timeline Interactive | The Smithsonian Institution's Human Origins Program がよくまとまっており見やすい。

気温の変化

「人類の進化と石器の使用」という図の上部の「気温の変化」と書かれている曲線(図2)が何を意味しているのかが分からない。この図では数十万年にわたって間氷期が続いているように描いてあるが、「全球的な気温変化[は]…[略]…第四紀前半の2.5~1 Ma[=Mega annum, 百万年前] には4万年周期が、そして1 Ma 以降現在まで、10万年周期が卓越し、振幅も非常に大きくなっている」*12(図3)ことと整合しない。2006年検定済の『詳説世界史 改訂版』*13にも同様の曲線が載っており、少なくとも十年以上は改訂せずにそのまま使用されているようである。古気候は推定手法によって多少の違いはあるだろうが、これはあまりにも違うので理由が知りたい。

気温の変化
図2:p. 7「人類の進化と石器の使用」図上部
地球の平均気温指標の推移
図3:海洋底コア堆積物(炭酸塩)の酸素同位体比(δ18O)から推定した過去180万年の地球の平均気温指標の推移*14。元の図は500万年以上あるが、大きいので改変して一部分のみを掲載している。

石器の使用

同図右下に木に石を紐状のもので固定してある石斧のイラストがある(図4)。横斧(adze)であると思われるが、石の刃よりも柄の方が出っ張っているため切ることができない。この道具の正体を知りたい。なお、『詳説世界史 改訂版』*15や『山川 詳説世界史図録(第3版)』*16にも同じイラストが載っている。

石斧のイラスト
図4:石斧のイラスト

*1:C. レヴィ=ストロース『悲しき熱帯 II』川田順三訳 中公クラシックス 2001, p. 425

*2:木畑洋一ほか『世界史B 新訂版』(世B309)実教出版 2016, p. 16

*3:E. H. カー『歴史とは何か』清水幾太郎訳 岩波新書 1962, p. 16

*4:福井憲彦ほか『世界史B』(世B308)東京書籍 2016, p. 22

*5:千葉敏之「画像史料とは何か」吉田ゆり子ほか編『画像史料論 世界史の読み方』東京外国語大学出版会 2014, p. 10

*6:Ibid., p. 24

*7:河辺俊雄『人類進化概論 地球環境の変化とエコ人類学』東京大学出版会 2018, pp.1f

*8:ハンフリー, L. ほか『サピエンス物語』篠田謙一ほか監修、山本大樹訳 エクスナレッジ 2018

*9:Orrorin tugenensis | The Smithsonian Institution's Human Origins Program

*10:木村靖二ほか『詳説世界史 改訂版』(世B310)山川出版社 2016, p. 10

*11:日下部公昭ほか編、木村靖二ほか監修『山川 詳説世界史図録(第3版)』山川出版社 2020, p. 10

*12:安成哲三『地球気候学 システムとしての気候の変動・変化・進化』東京大学出版会 2018, p. 111

*13:佐藤次高ほか『詳説世界史 改訂版』(世B016)山川出版社 2006, p. 21

*14:L. E. Lisiecki and M. E. Raymo "A Pliocene‐Pleistocene stack of 57 globally distributed benthic δ18O records", Paleoceanography 20 (2005), PA1003, doi:10.1029/2004PA001071.

*15:木村ほか op. cit., p. 10

*16:日下部ほか編 op. cit., p. 10