shaitan's blog

長文書きたいときに使う.

第1章①-2【シュメール人の都市国家】

農業生産

制御された河川の水を利用して灌漑・排水施設を整えることによって、極めて高い農業生産を得ることができた。

p. 17

ヘロドトスは「バビロン地方は穀類の産出では、われわれの知る限りの地域の内で飛びぬけて最高である。…[略]…収穫量が平均して(播種量の)二百倍、最大の豊作時には三百倍に達する」*1と伝えているがさすがにこれは大袈裟で、粘土板によると大麦は播種量の65-100倍*2くらいのようである。しかも、排水が十分でなく土壌の塩化が進行し、時代とともに収量は低下している*3ので、ヘロドトスの時代だともっと少なかっただろう。

征服

北方からやってきたセム語系民族アッカド人によって征服された。

p. 18

このように書かれるといかにも異民族による侵略という感じがするが、「シュメル人とアッカド人の間には…[略]…どうやら深刻な民族対立はなかったようだ。シュメルの都市国家アッカドサルゴンに切りしたがえられたが、これも民族対立に起因するものではなかった。シュメル人とアッカド人はともに都市生活をし、神を崇拝し、文化を持つ民であって、共存していた」*4らしい。

*1:ヘロドトス『歴史(上)』松平千秋訳 岩波文庫 1971, p. 144(I. 193)
ちなみに「(播種量の)」は文庫化に際して修正された部分であり、筑摩書房の世界古典文学全集第十巻(1967)では「他の地方の」になっていた。

*2:前川和也「古代シュメールにおける農業生産-ラガシュ都市を中心として-」『シュメール』9, 17-61 (1966). https://doi.org/10.5356/jorient.9.2-3_17 9つの耕地の収量倍率が計算してあるが、このうち30倍という著しく低い値を除けば1σで82±17倍である。

*3:C. ポンティング『緑の世界史』石弘之ほか訳 朝日選書 1994. に詳しく書いてあった気がする。

*4:小林登志子『シュメル―人類最古の文明』中公新書 2005, p. 183