shaitan's blog

長文書きたいときに使う.

第1章②-2【エーゲ文明】

クレタ

神話上この島[=クレタ]の王とされ、周囲に強大な海上支配を築いたとされるミノス王 Minos

p. 32

トゥキディデスは次のように伝える。〈伝説によれば、最古の海軍を組織したのはミーノースである。かれは現在ギリシアにぞくする海の殆んど全域を制覇し、キュクラデス諸島の支配者となった。そしてカーリア人を駆逐し、自分の子供たちを指導的な地位につけて、島嶼の殆んど全部に最初の植民をおこなった。もちろんかれは、勢力の及ぶ限りの海域から海賊を追払い、収益の道を拡大することに努力した。〉*1

クレタ文明の繁栄はオリエントとギリシア本土を中継するという、海上交易上有利な位置にあったことによる。

pp. 32f

地理的条件として、アリストテレスは〈その島[=クレタ]はよい位置を占めて自然の地勢からギリシアを支配するに適しているように思われる。というのはほとんど凡てのギリシア人たちがその周囲に住んでいるところの海の全体に跨っているからである。すなわち、或る地点ではペロポンネソスから、また他の或る地点ではアジアのトリオピオン地方とロドス島から僅かしか距っていない。〉*2と指摘している。

ギリシア民族の成立

ギリシア本土には、前2000年頃、北方からインド=ヨーロッパ語系のギリシア人が移住してきた。

p. 33

ギリシア語には-nthosとか-ssos (-ttos)とかの語尾を持つ名詞があるが、これらの語は他の語族から借用したと考えられている。この種の語は地名としてはギリシア本土(コリントス、パルナッソス山など)やエーゲ海の島々(クノッソスなど)、小アジア(ハリカルナッソスなど)と分布しており、先住民族がこのあたりの地域に広く居住していたことを示唆する。また、これらの借用語のなかには、海を表すthalassaをはじめとし航海に関する言葉が含まれており、これはギリシア人が移住してきた後に先住民から航海について学んだことを意味する。つまり、ギリシア人は陸路で北方から移住してきたのである。 *3
上記では『研究』の本文にあわせ、侵入民を単に「ギリシア人」と書いたが、伊藤貞夫は、侵入民は先住民と融合し、先進的な文化を積極的に吸収していったとして〈ギリシア人あるいはギリシア民族とは、この融合[=先住民と侵入民の融合]の過程で形成されたものではないか〉*4と書いている。

ミケーネ

これ[=ミケーネ文明]はドイツのシュリーマン Schliemann(1822~90)のミケーネ発掘によって明らかにされたもので、そこからは…[略]…おびただしい数の黄金製品が発見された。

p. 33

ホメロスは「黄金に富むミケーネの(πολυχρύσοιο Μυκήνης)」という定型句を使っている*5が、これはまったくの作り話という訳ではなかったようである。なお、もう少し短い言い回し*6として「道幅が広いミケーネ(εὐρυάγυια Μυκήνη)」という句も出てくる*7が、こちらについてはどの程度歴史的事実を反映しているのかはよく分からない。

*1:トゥーキディデース『戦史 上』久保正彰訳 岩波文庫 1966, p. 58(I. 4)

*2:アリストテレス政治学』山本光男訳 岩波文庫 1961, pp. 109f(II. 7(10), 1270b30)

*3:伊藤貞夫『古代ギリシアの歴史』講談社学術文庫 2004 [初出:「世界の歴史」第2巻『ギリシアとヘレニズム』講談社 1976], pp. 46-52.

*4:Ibid., p. 52

*5:Perseus Digital Library: Homer, Iliad, Book 7, line 180Homer, Iliad, Book 11, line 46Homer, Odyssey, Book 3, line 305

*6:ヘクサメトロスに乗せるために修飾語を変えていると思われる。

*7:Perseus Digital Library: Homer, Iliad, Book 4, line 53