shaitan's blog

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ドイツ語入門(語句の大文字書き)

『本気で学ぶドイツ語』では〈ドイツ語の発音の3原則〉についての説明の中、〈名詞は文中でも大文字で書きます。〉という一文が唐突に出てくる*1 のでちょっと面白い。「語頭を」と明示的に書いていないのはやや不親切な気もする。
〈ドイツ語は一部の北フリジア語方言とルクセンブルク*2とともに、名詞の頭文字を大文字書きする特異な正書法を採用している。J. グリムが、18世紀に確立したこの習慣を不合理として、『ドイツ語辞典』で破棄した事実は有名だが、21世紀初頭の正書法改革は、かえって助長した観がある。〉*3 〈「新正書法」では、…[略]…名詞かどうかの判断基準を…[略]…形式的なものに改めたため、全体として、今までよりずっと多くの名詞化形を大文字書きするようになる。〉*4正書法における語句の大文字書き規則は 2 Anwendung von Groß- oder Kleinschreibung bei bestimmten Wörtern und Wortgruppen の通り。
〈名詞頭文字の大文字書きは、1500年頃から始まり、1700年代の中頃に定着したと思われるが、それは「固有名詞>神聖な名称(HERR, Gott)>人を表す普通名詞>具体名詞>抽象名詞」の順で広まっていった。…[略]…名詞の大文字書きは、…[略]…名詞を「主要品詞」(Hauptwort)として明示する役割の他に、名詞枠を閉じる要素である名詞を視覚的に協調する働きもあったと思われる。〉*5 また、〈ゴシック文字は…[略]…ラテン文字アンティクヴァと比べると文字の見分けが困難なため、名詞が大文字で書かれたということが考えられる。〉*6という説もある。

*1:滝田佳奈子『本気で学ぶドイツ語』ベレ出版 2010, S. 15f.

*2:ドイツ語方言ではなく「ルクセンブルク語」がある、というのは多分に政治的な問題らしい(田中 克彦『ことばと国家』岩波新書 1981)。これ以外のドイツ国外で使用されている標準ドイツ語に近いことばについても調べると面白そうである。

*3:清水誠『ゲルマン語入門』三省堂 2012, S. 179.

*4:在間進編『ドイツ語「新正書法」ガイドブック』三修社 1997, S.17.

*5:荻野蔵平、齋藤治之『歴史言語学とドイツ語史』同学社 2015, S. 374f.

*6:須澤通、井出万秀『ドイツ語史』郁文堂 2009, S. 230.