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英語とドイツ語はいずれも西ゲルマン語に属するが、西ゲルマン語は英語の属する北海ゲルマン語とドイツ語の属する内陸ゲルマン語に大別される。北海ゲルマン語は「北海ゲルマン語的特徴」(Ingwäonismen)と呼ばれる共通性が目印で、そのうちの一つが人称代名詞の語尾-rの消失(z. B.: 英we ↔ 独wir)である。*1
T/V distinction
ドイツ語の2人称は親称と敬称があり、使い分けられている。これは〈現代の多くのヨーロッパ語に見られ,フランス語の tu / vous の例から,一般に T/V distinction と呼ばれる.T が下位,V が上位の二人称代名詞を指す.〉*2
これは、ラテン語において〈2人称複数形で1人の皇帝を指し示す慣用が発達した.やがて,この慣用は,皇帝のみならず権力者一般に適用されるようになった.〉*3というのが起源らしい。
その後発達したロマンス諸語では、現在は〈フランス語やルーマニア語の場合、2人称複数形が単数複数双方の丁寧語として働く[…]。イタリア語では、単数の男女とも「あなた」には3人称女性形であるleiと3人称動詞がその役割を果たす。[…]スペイン語ではustedという3人称動詞と用いる語が作られている。[…]カタルーニャ語vostèも同様の形成である。ポルトガル語はo Senhor/a Senhoraを3人称動詞とともに用いるのが一般的である。誰に対して丁寧形を使うべきかも、各言語ごとに異なった基準があるようである〉*4。
また、バスク語でも〈2人称単数には2つある。1つは親や祖父母が子や孫に言うときや親密な友人どうしのくだけた会話のみで用いられる人称で、だいたい「お前」に相当する。[…]もう1つはそれ以外のすべての場合に用いられ、だいたい「あなた」に相当する。[…]これは相手1人を指すが、動詞の語形の上では複数の人称の特徴を示す〉*5。これも起源は同じで言語接触によるものなのだろうか。
ドイツ語でのT/V distionctionの歴史は、#2107. ドイツ語の T/V distinction の略史にまとまっている。