shaitan's blog

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ドイツ語入門(規則動詞の現在人称変化)

『本気』では〈規則動詞の現在人称変化では語幹はそのままで、語尾だけが主語に合わせて変化(人称変化)します。〉*1 〈規則動詞の中で語幹がtやdで終わる語[…]は、-stや-tの語尾の前で発音しやすくするためにeを入れます。〉*2共時的な説明がしてある。
これに対し、通時的な説明としては以下の通り。〈ドイツ語のer kommt「彼は来る」(←kommen)にたいして、[…]sie wartet「彼女は待つ」(←warten)は、歴史的には「口調上の理由でeをはさむ」のではなく、語幹形成接尾辞がeとして残ったことによる。[…]ich warte「私は待つ」の-eは古くは語尾ではなく、sie wartetの-e-と同じく語幹形成接尾辞だった。じつは、英語のI am「私は…です」だけに残った-mが本来の語尾である。[…]古高ドイツ語では、ih wart-ē-m「私は待つ」のように、語尾-mが弱変化動詞の一部に保たれていた。-mは-nに弱まり、ich bin「私は…です」に残っている。〉*3
〈ドイツ語の2人称親称単数の語尾は du wartest「君は待つ」の-stだが、[…]語尾-sにdu「君」を接語化した結果である(wartēs du > wartēstu > warteste > du wartest)。〉*4 これについてSihlerは次のように書いている。〈The 2sg. ending -st was phonologically regular in the statives whose roots ended in apical stops, *þū waist `you know', *þū mōst `you may'; in these forms the enclitics *waistū, *mōstū were ambiguous, and from here they spread.〉*5 なお、古英語の直説法現在二人称単数の語尾は-estであるが、ここに出てくるtはドイツ語の語尾とは独立に発達したものらしい。*6

*1:滝田佳奈子『本気で学ぶドイツ語』ベレ出版 2010, S. 37.

*2:Ebenda, S. 41.

*3:清水誠『ゲルマン語入門』三省堂 2012, S. 83f.

*4:Ebenda, S. 84.

*5:Andrew L. Sihler „New Comparative Grammar of Greek and Latin“ Oxford Univ. Press 1995, S. 460.

*6:R. M. W. ディクソン『言語の興亡』大角翠訳 岩波新書 2001.