本当に大学を出てるのか?と自分でも思うんですが、チューズデイとサーズデイの違いが未だに咄嗟に分からないしそもそも書けないし、ディスセンバーとかなんとかバーの月も分からないし書けない。いい覚え方ないっすかね
— ささちゃん (@safour_1) 2020年12月8日
曜日の名前は前にやった(英語の曜日の名前 - shaitan's blog)ので、後回しにしていた英語の月の名前について。
英語の月の名前はローマの暦を起源とする。ローマの暦は当初は一年は十カ月であったという。
都の創建者(ロムルス)が暦を整えたときには、十カ月で一年となるように定めました。
フレイザー*2は、真冬から春にかけては農閑期なので、人々の活動の基準たる暦には含まれていなかった、とするHartmann*3の見解を支持している。このように一年のうち活動する期間しか暦がない現象はナイジェリア南部*4、ニュージーランド*5、トロブリアンド諸島*6ほか、世界各地で見られるという報告があるらしい。
イリオンの血を引く国父[=ロムルス]は、一年の長さを区切ろうとしたとき、ウェヌスの血統を見て取って、進んで自身の家系の祖を記しました。自分に一番生まれが近いという理由から、猛々しいマルスに第一番目の月を割り当てたように、ウェヌスが家系のずっと以前に見られるというので、その次の月をウェヌスの月としました。
〈三月のローマ名は「マルスの(月)」を意味するマルティウス。ローマ人は、ロムルスが父神マルスの名を一年の最初の月に冠した、と考えた。が、マルスに由来することは間違いないものの、実際には、ローマの月の名はローマ建国より昔に遡る。〉*8
英語のMarchは中英語期にフランス語から借入。同じマルスが語源でも、火曜日(Tuesday)とは異なり、そのままの語形を使用している。
春になればあらゆるものが開きます。固く凍てついた寒さは退き、大地は実りの門を開きます。そこで彼らは、開く (アプリレ)季節からアプリリスというのだと主張しています。けれども、この月には慈しみ深いウェヌスがすでに手をかけ、自分のものだと宣言してあるのです。
〈四月の名称アプリリス(Aprilis)の語源について正確なところはわからない。古代に行われていた有力な語源説は二つ。ひとつは、実り、花、動物など生物は生育を始め、海や陸地も寒さから解放されて「開く」(aperire)に語源を求める(キンギウス、ワロ(マクロビウス『サトゥルナリア』1.12.12以下))。いまひとつは、アプロディテ(Aphrodite=ウェヌス)にもとづくとする。前者のほうが一般的であったが、オウィディウスはこれを否定し、後者を支持してウェヌス女神を讃えている[…]いずれにしても、四月はウェヌスに神聖な月とされた。〉*10
五月の月の名マイユスの由来[…]にもさまざまな説明をつけることができるので、どれを採るべきか私にはわかりません。
〈五月マイユス(Maius)の名の由来については、ローマ人のあいだにも議論が分かれ、オウィディウスもここで三つの語源説、(1)「権威」(maiestas)、(2)「年長」(maior)、(3)「マイヤ女神」(Maia)を挙げながら、結論を出せぬままにしている。現在有力視されるのは第三説、女神マイヤと関連付けるものである。〉*12
〈OEにはLからのMaiusが見られるが、一般的にはþrimilce, þrimilcemōnaþ(原義)「一日に三度乳しぼりのできる月」が用いられていた。〉現在の語形は中英語期のフランス語からの借入による。*13
今月[=六月]も名前の由来が曖昧です。
〈六月の名ユニウスの語源もローマ人のあいだで説が分かれた。オウィディウスは以下に三女神にちなむ三説(ユノ、ユウェニス「青年」、ユンクトゥス「結合」)を挙げているが、この他に、タルクィニウス・スペルブス王が追放されたのち、最初の執政官として六月一日にカエリウス丘で犠牲式を執行したマルクス・ユニウス・ブルトゥスにちなむとの説もある(マクロビウス『サトゥルナリア』1.12.31)。〉*15
その後の月は一様に数字で示されました。
〈クィンティリス(Quintilis)、セクスティリス(Sextilis)、セプテムベル(September)、オクトベル(October)、ノウェムベル(November)、デケムベル(December)は、それぞれ、第五月、第六月、第七月、第八月、第九月、第十月を意味する〉*17
彼[=カエサル]は、[…]死すべき人間に与えられる限界を越えた栄誉が決議されても平然と黙認した。[…]彼の名(ユリウス)を冠した月の名。
七月はJulius Caesarの出生月にちなんでJūliusと呼ばれるようになった。英語は一度ラテン語から直接入ったが、フランス経由で再借入されたものが現在の語形Julyとなる。Julyの〈18Cの発音は/dʒúːli/であり、[…]音法則的でない現在のアクセントは、おそらくJuneとの混同をさけるためであろう〉*19。
アウグストゥスは八月を自分の添名に
因 み「アウグストゥスの月」と命名し、「私の生れた九月よりも、むしろ八月をとったのは、最初の執政官に就いたのがたまたまこの月で、そして特別輝かしい勝利を収めたのもこの月であるから」と弁明した。
〈MEではAugustの他にOF aoust(F aôut)から借入したaust, aoustも用いられた〉が、後期古英語の時代にラテン語から借入した語形であるAugustの方が現代英語まで残っている。*21
残りの九月から十二月までが「なんとかバーの月」になるわけであるが、数字が2つずれている。オウィディウスは
ヌマは、ヤヌス神と祖先たちの霊とをなおざりにできなかったので、昔からの月の前に二つの月を置いたのでした。
と書いている。しかし、モムゼンによるとカエサルが暦の改革を行った際に〈三月一日という古い暦の新年を廃止し、それに対して一月一日という日付[…]を暦でも年の初めとして採用した〉*23 とのことである。
戸(ヤヌア)は入口にあるのでヤヌスの月は一年の入り口にあり
〈ローマの一月の名称ヤヌアリウス(Ianuarius)はヤヌス神(Ianus)にちなむ。[…]門・アーチの擬人化として出入口を司り、物事の始まりの神であることは間違いない。〉*25
ローマの父祖たちは清めの具をフェブルアと言いました。[…]今月[=二月]の名前(フェブルアリウス)はこの清めにちなむのですが、それは、ルペルキが剥いだ皮をもって、全市の土地を巡行し、これで清めとするからか、あるいは、死者のための日々が過ぎ去ったそのときは、墓前の供養も済み、清らかな時期であるからでしょう。
ワロは『ラテン語論』ではfebrumはサビニ人の言葉で「清め」のこととしている*27。
また、〈ルペルキと呼ばれる祭司団による祝祭ルペルカリアはローマの祝祭中にもっとも古いもののひとつ。〉*28 プルタルコスはこの祭について、
ルペルカリアの祭[…]では、身分のある若者や高級官僚たちが大勢裸かで市内を駆け抜けてゆき、途上で出会うものがあれば、毛のついた革紐で、ふざけて笑いながらこの人たちを打つのである。そしてその際、上流の婦人たちも大勢わざとこれにむかって行って、学校で子供がそうするように、両手をさし出して打ってもらうのであるが、それも、妊婦には安産、子供のないものには懐妊の効果がある、と信じられていたからである。
と伝えている。
裸で外に駆け出すぜBaby
— ささちゃん (@safour_1) 2014年3月27日
というわけである。
*1:オウィディウス『祭暦』高橋宏幸訳 国文社 1994, p. 25.
*2:Ovid, J. G. Frazer (trans.), "Ovid's Fasti", Loeb Classical Library (1931), pp. 385f.
*3:〈O. E. Hartmann thought that …〉とだけ書かれており出典は不明だが、Der römische Kalender von Otto Ernst Hartmann: aus dem Nachlasse des Verfassers - Otto Ernst Hartmann - Google ブックスか?
*4:P. Amaury Talbot.
*5:W. Yate. "An Account Of New Zealand" 2e (1835), pp. 106n. http://www.enzb.auckland.ac.nz/document/?wid=76
*6:マリノフスキーだろうと思ったが、『西太平洋の遠洋航海者』にはそのような記述は見つけられなかった。
*8:Ibid., p. 289n.
*9:Ibid., p. 141.
*10:Ibid., p. 309n.
*11:Ibid., p. 182.
*12:Ibid., p. 329n.
*13:寺澤芳雄編『英語語源辞典』研究社 1997, p. 874. "May"
*15:Ibid., p. 345n.
*16:Ibid., p. 25.
*17:Ibid., p. 397n.
*18:スエトニウス『ローマ皇帝伝』(上)国原吉之助訳 岩波文庫 1986, pp. 77f.
*19:寺澤編 op. cit., p. 758 "July"
*20:スエトニウス op. cit., p. 127.
*21:寺澤編 op. cit., p. 82 "August"
*23:T. Mommsen『ローマの歴史』IV 長谷川博隆訳 名古屋大学出版会 2007, pp. 491f.
*25:Ibid., p. 257n.
*26:Ibid., pp. 58f.
*27:Varro, R. G. Kent (trans.), "On the Latin Language", Loeb Classical Library (1938), pp. 184f. (VI. 13.)https://archive.org/details/onlatinlanguage01varruoft/page/184/mode/2up
*28:オウィディウス op. cit., p. 280n.
*29:「カエサル」長谷川博隆訳『プルタルコス 世界古典文学全集』村川堅太郎ほか訳 筑摩書房 1966, p. 448.