shaitan's blog

長文書きたいときに使う.

大妻中学校2020年理科

(問)2019年はアマゾン熱帯雨林の火災が急増し、大きなニュースとなりました。熱帯雨林の減少によって起こりうる問題はいくつもありますが、その一つとして二酸化炭素の増加によって地球温暖化の進行が早まるのではないか、という心配があげられます。
火災で熱帯雨林が減少することで大気中の二酸化炭素が増加する、と考えられているのはなぜですか。簡潔に説明しなさい。

これに対する日能研の解答が

火災によって熱帯雨林が燃えることによって、大量の二酸化炭素が発生することに加えて、熱帯雨林が減少することによって、植物が光合成を行う量が減り、吸収される大気中の二酸化炭素が減るから。

である。

前提

「2019年はアマゾン熱帯雨林の火災が急増し」とある。衛星での観測によると、件数としては2012年、2017年に及ばないものの、強さとしては2012年以来最大となっている。*1
https://www.globalfiredata.org/images/updates/Figure_fire_counts_and_average_FRP_legal_Amazon_2012_2019_through_Oct_01.jpg
アマゾンでは干ばつが大規模な火災を引き起こすことが多い。干ばつの要因はエルニーニョ・南方振動(ENSO, El Niño-Southern Oscillation)や大西洋数十年規模変動(AMO, Atlantic Multidecadal Oscillation)である。*2

炭素の貯蔵

〈熱帯林の破壊が燃焼と組み合わさるとCO2…を増加させるが、森林がそこで再生されればCO2をふたたび固定する。〉*3 ただし、一時的であっても大気中の二酸化炭素が増加して放射強制力を増大させはする。そのため、正のフィードバックのある気候変動プロセス(極域の氷帽の縮小によるアルベドの減少や水温上昇による海水中の二酸化炭素の放出など*4)との組み合わせまで考えると、長期的な影響があるのだとも言える。

極相林はカーボンニュートラル

〈極相の森林では、現存量(一定面積当たりの有機物量)がほぼ一定となり、巨大化した幹、枝、根の呼吸による有機物の消費、枯れていく木の分解も大きくなるので、光合成生産による二酸化炭素の固定量と呼吸や分解による二酸化炭素の放出量が同じ程度〉*5 である。そのため、光合成による固定量は確かに減るものの、呼吸や分解による放出量も減るため、大気中の二酸化炭素の増加の理由になるとは一概には言えない。
実際、渦相関法を用いたCO2フラックスの観測データによると、熱帯林のGPP(総一次生産量。光合成による大気CO2の吸収量)は30-40 Mg C/ha/yr であり、RE(生態系呼吸量。植物や動物の呼吸および微生物による有機物の分解にともなうCO2の放出量)は同程度で、この差であるNEE(純生態系CO2交換量。生態系と大気の間のCO2の交換量)は正の森林もあれば負の森林もある。*6
成熟林はカーボンニュートラルではなく炭素を吸収しているという論文*7 が出ているものの、広く受け入れられてはいないようである。

*1:Updates - Global Fire Emissions Database

*2:平野高司「熱帯林への気候変動および人間活動の影響」三枝信子・柴田英昭[編]『森林科学シリーズ6 森林と地球環境変動』共立出版 2019, pp. 89-91.

*3:T. C. ホイットモア『熱帯雨林 総論』熊崎実・小林繁男[監訳] 築地書館 1993, p. 181.

*4:J. ハート『環境問題の数理科学入門』小沼通二・蛯名邦禎[監訳] 丸善出版 2012, pp. 192, 196f.

*5:森川靖「収支は赤字?」日本林業技術協会[編]『熱帯林の100不思議』東京書籍 1993, p. 32.

*6:平野 op. cit, pp. 86-88.

*7:Luyssaert, S., Schulze, ED., Börner, A. et al. "Old-growth forests as global carbon sinks." Nature 455, 213–215 (2008). https://doi.org/10.1038/nature07276