shaitan's blog

長文書きたいときに使う.

inの意味

歴史

前置詞 in は多義であるが、「…の中に」「…の状態で」「[時間]…の間に」「…の方へ」「[手段]…で」といった語義は OE 期からある。OE の前置詞 in は Anglian の特徴であり、West-Saxon では通例 on が in の意味でも用いられていた。15Cまで on は「…の中に」という意味で使われている。また、初期 ME で in は方言によっては語末子音の落ちた形 i が一般に用いられた。Chaucerの時代以降 in が標準形として確立したが古い短縮形も残っており、例えば ModE 期に hand i' cap から handicap 「ハンディキャップ」が生まれた。ちなみに、もとの意味は「それぞれの持ち物を賭けて価値の差を補うために帽子の中に罰金を入れておいた昔のくじ引き遊び」らしい。なお、前置詞の in と副詞の in とは本来は別語で、現代ドイツ語では前置詞 in と分離前つづり ein のように区別が保たれている。into は副詞の in と前置詞の to から。*1

位置関係

in は〈《(空間・領域)の中に》が基本義。何らかのものに囲まれた空間・領域の内部を表す。〉*2 「囲まれた」といってもThe ligtht bulb is in the socket「電球はソケットにはめ込まれている」のようにごく一部のみが囲まれている関係も表せる。更に、The pear is in the bowl. 「梨はボウルの中にある」は、梨の下にたくさんの果物が入っているため梨がボウルの縁より高い位置にあり、厳密には「囲まれ」ていない場合も表すことができる。これは in が純粋な空間的属性だけでなく機能的関係と結びついているからであるという。梨の例文の場合、ボウルを運ぶことで梨も一緒に運ぶことができる。*3

曖昧な広がり

in が内側を指すところの空間や領域には上の例のように境界が曖昧なこともある。他の例としては、a stove in the corner of a room「部屋のすみのストーブ」*4 。また、〈「太陽は東から昇り、西に沈む」という状況を英語では The sun rises in the east and sets in the west. のように表現します。 in the east と in the west はそれぞれ「東という場(空間)に」「西という場(空間)に」ということで、英語的な発想で日本語にすれば「太陽は東から昇り、西に沈む」となります。〉*5
〈In thick fog, an on-board computer pilots a plane in to land.〉*6 この文には2つ in が含まれている。一つ目の in では、fog の種類が限定されているので可算とする方が自然な気がした*7が、この場合は thick という種類よりも fog の非有界的な認識に焦点が当たっているのであろう*8。二つ目の in は「到着」を表す副詞である。「到着」義は独立義として定着しており*9、船が港に入るような場合にはLMが明確であるが、今回の例文ではLMは曖昧である。

着用

〈a lady in a red dress(赤いドレスの女性)のように「赤いドレスに包まれている」感覚もinで表します。〉*10「着用」という機能的な関係性を表すので全体が包まれている必要はなく、〈a student in glasses めがねをかけた生徒〉*11 や〈sleep in one's contact lenses コンタクトをしたまま眠る〉*12 といったものまで表せるほど意味が拡張されている。
衣服や装飾品などではないが、人が包まれているという位置関係としては〈Don't get too close: I may be getting the flu, I'm all in a sweat.〉*13

通路

We couldn't move the car because a fallen tree was in the driveway. 「道路に倒木があったので車を動かすことができなかった」のように、LMは通路として概念化されることがある。*14 direction も in を取るが、通路のイメージなのだろうか。

位置・領域の指定

人体の部位で〈have a pain in one's back [throat] 腰[喉]が痛い〉*15、〈He was blind in his right eye. 彼は右目が見えなかった〉*16。また、〈The ball hit him in the eye. そのボールは彼の目に当たった〉*17、〈This mad bloke punched me in the nose.〉*18。これと似ているのが、抽象概念で〈This country is rich in natural resoruces. この国は天然資源に恵まれている〉*19 や〈Are you interested in jazz? あなたはジャズに興味がありますか〉*20

形状や配置など

〈A part of the wall crumbled down in powder. 「壁の一部がぼろぼろと崩れ落ちた」。in powder を意訳すれば、「粉となって」となり、さらに意訳をかさねると「ぼろぼろと」になるわけだ。〉*21 これや〈The rain was coming down in torrents. 雨は滝のように降っていた〉*22 などは、主語(The rain)は in でマークされた対象(torrents)の全体と等しい。〈wait in line 並んで待つ〉*23 のような場合、主語は line そのものになるのではなく、line の一部となる。

*1:寺澤芳雄[編]『英語語源辞典(縮刷版)』研究社 1999 [机上版1997], pp. 617, 699, 732, 988. "handicap", "in", "into", "on"

*2:山岸勝榮[編]『スーパーアンカー英和辞典』[第5版] 学研プラス 2015, p. 879. "in"

*3:A. タイラー・V. エバンズ『英語前置詞の意味論』国広哲弥[監訳] 研究社 2005 [原著: Andrea Tyler and Vyvyan Evans, "The Semantics of English Prepositions" (2003)], pp. 223f.

*4:南出康世[編集主幹]『ジーニアス英和辞典』[第5版電子辞書版] 大修館書店 2014, p. 475. "corner"

*5:田中茂範『表現英文法』[増補改訂第2版] 2015, pp. 476f.
ちなみに、ここの the は「東西南北」という四項対立のうちから一つを指示する用法である。(織田稔『英語冠詞の世界』研究社 2002, pp. 90ff.、樋口昌幸『例解 現代英語冠詞事典』大修館書店 2003, pp. 284ff.)

*6:Brygida Rudzka-Ostyn, "Word Power: Phrasal Verbs and Compounds: A Cognitive Approach", Mouton de Gruyter 2003, p. 56.

*7:樋口 op. cit, p. 132.
また、in (a) thick fog で.ukのサイトをgoogle検索すると a がつく方がほぼ2倍。https://www.google.com/search?q=%22in+a+thick+fog%22+site%3Auk, https://www.google.com/search?q=%22in+thick+fog%22+site%3Auk
Corpus of Contemporary American English (COCA) でも冠詞のある方が多い。

*8:石田秀雄『わかりやすい 英語冠詞講義』大修館書店 2002, pp. 38ff.
例としては red wine や hot/cold water が挙げられている。

*9:タイラーほか op. cit., p. 238.

*10:田中 op. cit, p. 476.

*11:山岸[編] loc. cit.

*12:井上永幸赤野一郎[編]『ウィズダム英和辞典』[第4版特装版] 三省堂 2019, p. 1022. "in"

*13:Rudzka-Ostyn op. cit., p. 49.

*14:タイラーほか op. cit., p. 242.

*15:井上ほか loc. cit.

*16:野村恵造ほか[編]『オーレックス英和辞典』[第2版] 旺文社 2013, p. 990. "in"

*17:赤須薫[編]『コンパスローズ英和辞典』研究社 2018, p. 931 "in"

*18:Rudzka-Ostyn op. cit., p. 49.

*19:野村ほか loc. cit.

*20:山岸[編] op. cit., p. 881. "in"

*21:中村保男『新編英和翻訳表現辞典』研究社 2002, p. 353.

*22:野村ほか loc. cit.

*23:井上ほか[編] op. cit, p. 1023. "in"