shaitan's blog

長文書きたいときに使う.

複勝の払戻金


うさ太郎氏が競馬を始めた。一番人気の複勝を買うのがうさ太郎流である*1複勝(およびワイド)はオッズに幅がある。これをなるべく正確に見積もってみたい。

払戻金の計算方法

(払戻金の算出方法等)
第9条 勝馬投票の的中者に対する払戻金は、付録第6で定める算式によつて算出した金額を当該勝馬に対する各勝馬投票券の券面金額にあん分したものとする。
[後略]

競馬法施行規則*2

付録第6 (第9条第1項、第45条第3項関係)
(W+D/P)×R+A/P
Wは、当該勝馬に対する勝馬投票券の総券面金額とする。
Dは、出走した馬であつて勝馬以外のものに対する勝馬投票券の総券面金額とする。
Pは、勝馬の数とする。
Rは、法第8条第1項(法第22条において準用する場合を含む。)の規定により競馬会、都道府県又は指定市町村が定める率とする。
Aは、法第9条第1項又は第3項(これらの規定を法第22条において準用する場合を含む。)の加算金とする。

競馬法施行規則*3

この式は「馬券のルール JRA」の「払戻金の計算方法」にも載っている。Rは日本中央競馬会が定めた率であり、複勝の場合は0.8。Aは「指定重勝勝馬投票法」(法第9条)、いわゆるWIN5のときのみなので今回は関係ない。

端数の処理

さて、この式について親切に教えてくれているJRAのページも、このときに生じる端数の処理については沈黙している。関係法令等のpdfを見に行くと、

(払戻金)
[中略]
第10条 払戻金を交付する場合において、前2条の規定によつて算出した金額に1円未満の端数があるときは、その端数は、これを切り捨てる。
[後略]

とある。ここで、

勝馬投票券
第6条 日本中央競馬会は、その開催する競馬の競走及び第3条の2第1項の規定により指定された海外競馬の競走について、券面金額10円の勝馬投票券を券面金額で発売することができる。
日本中央競馬会は、前項の勝馬投票券10枚分以上を1枚をもつて代表する勝馬投票券を発売することができる。
[後略]

則9条で「按分」とあるので紛らわしいが、券面金額10円のものしかないため単に等分される。また、切り捨て処理のためオッズは小数第1位までとなっている。第2項を見ると、例えば15枚を代表する馬券を売ったり、あるいは20枚単位でしか売らないことにしたりできそうだが、JRAはそういうことはやっていないようである。

JRAプラス10

JRAでは〈「通常の払戻金が『100円元返し』になる場合に、10円を上乗せして110円で払戻す」〉(JRAプラス10 JRA)。根拠法令を以下に引用する。

(給付金の交付等)
第5条 日本中央競馬会は、日本中央競馬会法第19条に規定する業務のほか、当分の間、農林水産省令で定めるところにより、あらかじめ、農林水産大臣の認可を受けて、次の各号に掲げる金額を、当該各号に定める者に対し、交付することができる。
[中略]
(2) 第8条第1項の払戻金の額が、勝馬投票券の券面金額以下となる場合(第10条第1項の端数切捨てにより勝馬投票券の券面金額となる場合を含む。)において、当該勝馬に対する各勝馬投票券につき、その券面金額の10分の1に相当する金額(以下この条において「2号給付金」という。) 当該勝馬投票の的中者
[中略]
3 2号給付金は、当該2号給付金の交付の対象となる勝馬投票法の種類ごとの払戻金の総額に当該勝馬投票法の種類ごとの2号給付金の総額を加算した額が当該勝馬投票法の種類ごとの勝馬投票券の売得金の額を超える場合は、交付してはならない。

競馬法附則

〈特定の馬番号・組番号に特に著しく人気が集中した場合には、競馬法の規定により「100円元返し」となる場合があります〉というのは第3項のためである。勝馬の数が1の場合は1/1.1≒91%以上の得票率でJRAプラス10の対象とならず元返しとなる。8頭立て以上の複勝勝馬の数が3)の場合、それぞれの得票率をa, b, c(a>b, cとする)とおくと、1番人気がJRAプラス10の対象とならないのは、
1.1a+\left\lfloor8\left(\dfrac{1-a-b-c}{3b}+1\right)\right\rfloor\dfrac b{10}+\left\lfloor8\left(\dfrac{1-a-b-c}{3c}+1\right)\right\rfloor\dfrac c{10}>1
のとき。ただし、2番人気以降は人気が分散しており、通常の払戻金は元返しにならないとした*4。概算*5すると、およそ8割以上の得票率で元返しとなる。

複勝の得票率

N頭立てレースの複勝P着払い)の得票率を求める。複勝i番人気の馬の得票率をx_i複勝最高オッズをy_iとする。人気下位からP頭の最高の払い戻しは、これらP頭が勝馬となったときに実現する。よって、複勝i番人気(ただしi>N-P)の馬の複勝最高オッズはy_i=\left\lfloor8\left(\dfrac{W}{Px_i}+1\right)\right\rfloor\dfrac1{10}となる。ただしW=\displaystyle\sum_{k=1}^{N-P}x_kである。
これより\dfrac1{10y_i-7}< \dfrac{Px_i}{8W}\leq\dfrac1{10y_i-8}であるから、これをi=N-P+1,\ldots,Nについて和を取ると\displaystyle\sum_{k=N-P+1}^N\dfrac1{10y_k-7}<\dfrac{P}8\left(\dfrac1W-1\right)\leq\sum_{k=N-P+1}^N\dfrac1{10y_k-8}となる(y_i>1.1のとき)。これからWの範囲が求まり、それを用いてi>N-Pのときのx_iの範囲が求まる。i\leq N-Pのときx_iは、y_i=\left\lfloor8\left(\dfrac{W-x_i+x_{N-P+1}}{Px_i}+1\right)\right\rfloor\dfrac1{10}から範囲が求まる*6。これですべてのiについてx_iの範囲が求まったので、任意の着順における払戻金の額を見積もることができる。

概算

実際にはW\approx1, x_{N-P+1}\approx0であり、更に\lfloor x\rfloor\approx xと近似する*7P=3の場合を考えるとx_i\approx\dfrac{4}{15y_i-8}となる。
今年の皐月賞*8で計算をすると、x_2\approx0.1951, x_6\approx0.0625, x_{10}\approx0.0462であるから、これら3頭が勝馬となったときの払戻額/円はそれぞれ10\left\lfloor\left(\dfrac{1-x_2-x_6-x_{10}}{3x_2}+1\right)*8\right\rfloor=17010\left\lfloor\left(\dfrac{1-x_2-x_6-x_{10}}{3x_6}+1\right)*8\right\rfloor=37010\left\lfloor\left(\dfrac{1-x_2-x_6-x_{10}}{3x_{10}}+1\right)*8\right\rfloor=480となる。実際の払戻金はそれぞれ170円、380円、490円であるから、おおむね満足いく精度で求まっているといえる。不満がある向きは前段に示した正確な式を使用されたい。なお、ここで発生した誤差は主にW\approx1の近似に起因している。

*1:エフフォーリア号は最終オッズを見ると二番人気であるが、うさ太郎氏が購入した時点では一番人気であった。 【皐月賞 13時時点オッズ】エフフォーリアが単勝3.6倍で1番人気、ダノンザキッドが3.9倍で続く | 競馬ニュース - netkeiba.com
なお、最近は「小賢しい買い方」をしているようだ。

*2:JRA関係法令等 JRA > 競馬法施行規則(pdf)。以下、JRA関係法令等のページにリンクのある法令を引用した場合はいちいちことわらない。

*3:なお、e-Govの競馬法施行規則付録第六(pdf)は式が誤っており、
(\mathsf W+\dfrac{\mathsf D}{\mathsf P}\times\mathsf R+\dfrac{\mathsf A}{\mathsf P})
となっている。こうだったらよかったのにな。

*4:仮に4番人気以降が極端に人気薄という場合、1-3番人気が揃って勝馬となるパターンでは全て元返しとなる。例えばこのようなレース: 3歳1勝クラス 結果・払戻 | 2021年5月15日 東京7R レース情報(JRA) - netkeiba.com主催者発表の結果ではないが、JRAのサイトでは直接リンクできないためnetkeiba.com - 国内最大級の競馬情報サイトのリンクを載せている。)

*5:端数切捨てを無視すると17a+8b+8c>14であり、ここでさらにb, cを無視するとa>\dfrac{14}{17}\approx 0.82となる。

*6:一番人気に関してはx_1=1-\displaystyle\sum_{k=2}^Nx_kの関係を使った方が正確に見積もれるかもしれない。

*7:x-\dfrac12の方が良い近似であるが、ここではそこまでの精度は必要ない。

*8:皐月賞(G1) 結果・払戻 | 2021年4月18日 中山11R レース情報(JRA) - netkeiba.com