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ドイツ語入門(人称代名詞(主格)②)

wir

英語とドイツ語はいずれも西ゲルマン語に属するが、西ゲルマン語は英語の属する北海ゲルマン語とドイツ語の属する内陸ゲルマン語に大別される。北海ゲルマン語は「北海ゲルマン語的特徴」(Ingwäonismen)と呼ばれる共通性が目印で、そのうちの一つが人称代名詞の語尾-rの消失(z. B.: 英we ↔ 独wir)である。*1

T/V distinction

ドイツ語の2人称は親称と敬称があり、使い分けられている。これは〈現代の多くのヨーロッパ語に見られ,フランス語の tu / vous の例から,一般に T/V distinction と呼ばれる.T が下位,V が上位の二人称代名詞を指す.〉*2
これは、ラテン語において〈2人称複数形で1人の皇帝を指し示す慣用が発達した.やがて,この慣用は,皇帝のみならず権力者一般に適用されるようになった.〉*3というのが起源らしい。
その後発達したロマンス諸語では、現在は〈フランス語やルーマニア語の場合、2人称複数形が単数複数双方の丁寧語として働く[…]。イタリア語では、単数の男女とも「あなた」には3人称女性形であるleiと3人称動詞がその役割を果たす。[…]スペイン語ではustedという3人称動詞と用いる語が作られている。[…]カタルーニャ語vostèも同様の形成である。ポルトガル語はo Senhor/a Senhoraを3人称動詞とともに用いるのが一般的である。誰に対して丁寧形を使うべきかも、各言語ごとに異なった基準があるようである〉*4
また、バスク語でも〈2人称単数には2つある。1つは親や祖父母が子や孫に言うときや親密な友人どうしのくだけた会話のみで用いられる人称で、だいたい「お前」に相当する。[…]もう1つはそれ以外のすべての場合に用いられ、だいたい「あなた」に相当する。[…]これは相手1人を指すが、動詞の語形の上では複数の人称の特徴を示す〉*5。これも起源は同じで言語接触によるものなのだろうか。
ドイツ語でのT/V distionctionの歴史は、#2107. ドイツ語の T/V distinction の略史にまとまっている。

*1:清水誠『ゲルマン語入門』三省堂 2012, S. 29.

*2:堀田隆一『hellog~英語史ブログ』#167. 世界の言語の T/V distinction

*3:堀田 a. a. O., #1126. ヨーロッパの主要言語における T/V distinction の起源

*4:小林標『ロマンスという言語』大阪公立大学共同出版会 2019, S. 288f.

*5:田村すず子バスク語東京外国語大学語学研究所編『世界の言語ガイドブック1 ヨーロッパ・アメリカ地域』三省堂 1998, S. 204.

ドイツ語入門(人称代名詞(主格)①)

タイトルは『本気』の学習項目から取るようにしているのだが、今回は第1課の〈人称代名詞(1格)と[…]〉*1 を少し変えた。
ドイツ語では格を表すのに数字を用いることが多いが、角田太作はこれを批判して次のように書いている。〈私が習った独語の教科書は、格の名称に「1格、2格、3格、4格」を使っていた。これでは一体何だか分からない。独語の格の意味や用法は他の言語との共通点があるのに、こんな名前では共通点が分からない。実は、1格は主格、2格は所有格、3格は与格、4格は対格である。一般言語学的に通用しない述語は好ましくない。〉*2
このブログでも基本的に数字を用いた格の呼称は使用しないことにする。

〈ドイツ語の統語的変化の「発展傾向」(Entwicklungstendenz)あるいは「ドリフト」(Drift)としてしばしば指摘されるものに、「総合的言語」(synthetische Sprache)から「分析的言語」(analytische Sprache)への変化がある。[…]具体的な現象としては[…]主語人称代名詞の義務化[…]などがある。〉*3 というわけで、今回は現代ドイツ語において欠かせない主語人称代名詞について。
ただし、ドイツ語のように、〈文には必ず文法上の主語が要求される[…]言語は、現在までに判明しているかぎりでは、フランス語、英語、ドイツ語、それ以外では、スイスで話されいているロマンシュ語オランダ語、そしてスカンディナビア語が挙げられるだけで、[…]言語の普遍性と類型論の見地からすれば、広大な世界言語の中の小さな一言語圏である〉*4

ich

〈ichとIとは同語源である。ドイツ語の中でもいっそう英語やオランダ語に近い北ドイツ方言では、今日でもichではなくikという形が用いられるが(オランダ語もik)、[…]初めはいわば「全国区」型であったikが、7,8世紀頃、南ドイツから勢力を持ちだしたichによってジリジリと圧迫され、今では標準語としてはichのみが唯一の公認形ということになってしまったのである。〉*5
このk>chの変化は第二次(古高ドイツ語)子音推移の一つである。〈第二次子音推移は南ドイツでは完全に浸透したが、北へ行くにつれて浸透の度合いは薄れ、最北部では一部散発的に見られるだけで、子音推移の影響はほとんどなかった。[…]ドイツ語の方言群は、子音推移に関与した中部および南部高地の「高地ドイツ語」と、これに関与することがほとんどなかった北部低地の「低地ドイツ語」に大別され[る。…]低地ドイツ語と高地ドイツ語の方言地域は、子音推移の広まりを示す等語線によって区分される。この等語線は、最も北上した子音推移語形ik/ichからik/ich線と呼ばれ、[…また、]「ユルディンゲン線」とも呼ばれる。〉*6
〈OE icは中部・南部方言ではOE期の間に口蓋化してiċ /itʃ/ となったが、北部ではMEになってもic, ikのまま残った。ME初期に北部・中部では子音の前で語末の-k, -chを落としたiが用いられ始め[…]、1400年以降は後続音が母音、子音を問わずこの形が支配的となった。[…iは]まず強勢を受ける位置で長母音化したものが次第に一般化し、その後/iː/>/ai/なる規則的な変化によって今日の発音となった。〉*7
この一人称主格を表す単語が〈i一文字となってからは、当時の小文字のiには点がなかったため、まぎらわしくないように長く延ばして書く習慣が生まれ、これが大文字使用につながった。〉*8〈当初は、大文字のI以外にもy(iと同じ音を表す)やj(iの下部を伸ばした文字)が一人称単数形として用いられることもあったが、最終的には大文字のIに落ち着いた。〉*9
また、〈近代小文字iは、大文字にない頭上の`dot'をもっている。この文字の古形(`dot'をもたない)ı […]は、字形があまりに簡単であって、`minim'(文字の上から下へ書き下ろす字画)の連続に接する場合には他の文字の一画と見誤られる恐れがある。そうした位置にあるıを個別化するために冠せられたのがこの符号[=dot]の起源である。〉*10 minimの紛らわしさについてはこちらの一連の記事が面白い(minim / hellog〜英語史ブログ)。今回のエントリに直接関係のある「#91. なぜ一人称単数代名詞 I は大文字で書くか」という記事もある。

*1:滝田佳奈子『本気で学ぶドイツ語』ベレ出版 2010, S. 36.

*2:角田太作『世界の言語と日本語 改訂版 言語類型論から見た日本語』くろしお出版 2009, S. 179.

*3:荻野蔵平、齋藤治之『歴史言語学とドイツ語史』同学社 2015, S. 90f.

*4:松本克己『世界言語への視座 歴史言語学と言語類型論』三省堂 2006, S. 255f.

*5:石川光庸『匙はウサギの耳なりき』研究社 1993, S. 26f.

*6:須澤通、井出万秀『ドイツ語史』郁文堂 2009, S. 65ff.

*7:寺澤芳雄編『英語語源辞典(縮刷版)』研究社 1999, S. 682. „I2

*8:小島義郎、岸曉、増田秀夫、高野嘉明 編『英語語義語源辞典』三省堂 2007, S. 549. „I“

*9:寺澤盾「第1章 古英語」片見彰夫ほか編『英語教師のための英語史』開拓社 2018, S. 22.

*10:田中美輝夫『英語アルファベット発達史』開文社叢書 1970, S. 196.

ドイツ語入門(基数③)

11. elf

Gmc *ainlif- < *ainaz + *lif- であり、*lif-はPIE *leikw- (to leave)にさかのぼる。one left (over ten)の意。日本語だと「余一」(人名「与一」の語源とされる)といったところか。*1 〈古英語のendleofanは最初の要素en(d)は「1」の意味でleofanは現代英語のleft(残された)に対応し、[…]現代英語のelevenはendleofanの異形ellefneに由来する。〉*2

12. zwölf

これも11と同様に原義は「10かぞえて残り2」のGmc *twa- + *lif-。ドイツ語のöは円唇化によるもの?

13, 14, ..., 19. dreizehn, ..., neunzehn

ゲルマン語では11と12は上に述べた通りであるが、印欧語では一般には〈The numbers 11-19 were originally phrases, typically asyndetic, which tended to metamorpose into compounds by phonological developments. The basic form was `n ten' meaning `n plus ten'〉*3 らしい。
ドイツ語の場合、sechzehnとsiebzehnの語形は単純な語の結合とは異なる。発音はsechzehnではsが落ちた結果chは[ç]となり、siebzehnではenが落ちてbが音節末になるため[p]と発音される。
英語の場合、thirteenはME threteneの音位転換形より。fifteenはむしろfiveの方が例外(ドイツ語入門(基数①) - shaitan's blog)。eighteenはOE eahtatēneだったのでhaplologyだろうか。

20, 30, ..., 90. zwanzig, ..., neunzig

〈t(> th)>zz[sː]>z[s]の変化の結果は、標準ドイツ語でss[s], 長母音と二重母音の後ではß[s]と表記する。ß(< sz)「エスツェト」は、[引用者註:音節頭の]z, tz[ts]と区別して、母音に続くtに由来する無声音[s]を表す。[…]十の位を表す数詞はzwanzig「20」(英twenty)のように-zig[ツィヒ tsiç]だが、母音に後続するdreißig「30」(英thirty)だけが-ßig[スィヒ siç]となるのは、このためである。〉*4 なお、〈13の場合にdreissehnにならなかったのは、10 zehnという独立語が確立していて、語中音という意識が成立しえなかったからであろう。〉*5

21, 22, ..., 99. einundzwanzig, ..., neunundneunzig

OEでは、〈21など、1位の桁の数が1から9までである2桁の数字は、ドイツ語などに見られるような`1位数詞 and 10位数詞’の形式ān and twēntiġで表現された。この形式がME後期に、フランス語から流入した形式twenty-oneに次第に置き換えられ、以降これが確立して現代に至っている。〉*6 ところで、現代フランス語では21, 31, 41, 51, 61はvingt et un(e)のようにetがつくのだが、当時はどうだったのだろう。

100. (ein)hundert

OE hundredはPIE *ḱm̥tómに由来するhundと数字を意味する-redからなる。〈hund-が本来はONのように120を表したことは、100を表すため[の…]hundtēontiġ(cf. OHG zehanzug)のような言い方から知られる。*7[…]ゲルマン民族では本来12進法が用いられ、のちにおそらくキリスト教の影響で10進法に変わったらしい。アイスランドには12進法が部分的に最も遅くまで残り、ONでは100はtíu tigir(=*tenty), 110はellifu tigir(=*eleventy), 120は[…]hundrað, 1200はþúsund[…]といっていた。また70以上はOEでは語頭に[…]hundを加えるのが本来だが(cf. OE hundseofontiġ 70)、これもおそらく12進法に関係があると考えられる。〉*8

1000. (ein)tausend

語頭が英 th に対して独 t となっている。〈tausend に見られるd→tは例外的な子音変化(第三子音変化と呼ばれることがある)で、これは連声形(sandhi form: cf. sechs tausend, acht tausend)あるいは、意味の強調によるものか。〉*9

*1:寺澤芳雄編『英語語源辞典(縮刷版)』研究社 1999, S. 421. „eleven“

*2:寺澤盾「第1章 古英語」片見彰夫ほか編『英語教師のための英語史』開拓社 2018, S. 15.

*3:A. L. Sihler New Comperative Grammear of Greek and Latin, Oxford Univ. Press 1995, S. 417.(390)

*4:清水誠『ゲルマン語入門』三省堂 2012, S. 47.

*5:石川光庸『ドイツ語〈語史・語誌〉閑話』現代書館 2012, S. 11.

*6:宇賀治正朋『英語史』開拓社 2000, S. 186.

*7:それだけでは断言できない気がする。他にも何かしら根拠があるのだろう。

*8:寺澤芳雄編『英語語源辞典(縮刷版)』研究社 1999, S. 674f. „hundred“

*9:Ebenda, S. 1430f. „thousand“

不等式bot問題172


(a,b,c)(a^2,b^2,c^2)にCauchy–Schwarzで(a^3+b^3+c^3)^2\leq(a^2+b^2+c^2)(a^4+b^4+c^4)よりa^3+b^3+c^3\leq a^2+b^2+c^2
(\sqrt a,\sqrt b,\sqrt c)(a\sqrt a,b\sqrt b,c\sqrt c)にCauchy–Schwarzで(a^2+b^2+c^2)^2\leq(a+b+c)(a^3+b^3+c^3)\leq(a+b+c)(a^2+b^2+c^2)であるからa^2+b^2+c^2\leq a+b+c
Titu's Lemmaを使って
\mathrm{LHS}=\displaystyle\sum_{\mathrm{cyc.}}\dfrac{a^2}{a^3+ab^3+ac^3}\geq\dfrac{(a+b+c)^2}{(a+b+c)(a^3+b^3+c^3)}\geq1



a^3+b^3+c^3\leq a+b+cはもっと簡単に示せそうな気がする。

京大2014年文系問題5

問題略

Aが0点以外の得点となるのは、AとBが異なる目を出し、かつAの出目の方が大きいときである。この確率は\dfrac{19}{20}\cdot\dfrac12
このとき、AとBの出目をそれぞれXとYとする。
E[Y]=E_X[E_Y[Y|X=x]]=\dfrac12E[X]
また、P[X=x, Y=y]=P[X=21-y, Y=21-x]よりE[X]=21-E[Y]
以上よりE[X]=14
従って求める期待値は14\cdot\dfrac{19}{20}\cdot\dfrac12=\dfrac{133}{20}

ドイツ語入門(基数②)

6. sechs

Gmc *sehs [sexs] (Reconstruction:Proto-Germanic/sehs - Wiktionary)からの発達。
〈中高ドイツ語のsの前のhは、初期新高ドイツ語でmhd. vuhs [fuxs] > nhd. Fuchs [fuks](狐)のように、軟口蓋摩擦音[x]から閉鎖音[k]に変わった。〉*1
英語では〈X文字は[ks]の音価をもってOE以来用いられている〉*2 とのことなので、英語の方はOE siexの頃から[ks]だったのだろう。

7. sieben

PIE *septḿ̥ に対し Gmc *seƀun であるが、語尾の *-m̥ > *-un の変化からGmcの前は語尾に子音が続いていたと考えられ、ゲルマン語以外で見られる *-pt- がないことから、Gmcは*sepḿ̥tにさかのぼるらしい。*3
PIE *p は第一次子音推移によりGmc *fとなったが、〈ヴェルナーの法則[…]によれば、無声摩擦音f, þ, xとsは語中および語末において、これらの直前の音節にアクセントがある場合は無声のまま留まるが、直前の音節にアクセントがない場合は、有声化してƀ, đ, ǥおよびzとなる。〉*4 有声有気閉鎖音(bh/dh/gh/gwh)も第一次子音推移により有声摩擦音になった結果、〈ゲルマン祖語では摩擦音が著しく多いという類型論的な不均衡が生じた。それを解消するように[…]「有声摩擦音(ƀ/đ/ǥ/ǥw)>有声閉鎖音(b/d/g/gw)」の変化が続いたとされている。〉*5
ただし、OE seofonであり、英語の場合は[v]音で閉鎖音化はしていない。

8. acht

Gmc *ahtōu [ˈɑx.tɔːu̯](Reconstruction:Proto-Germanic/ahtōu - Wiktionary)の強勢のない第二音節が弱化して現代ドイツ語に至ったのだろう。
英語の方は〈Gmc h [x] はOEで[…]-ht, -hh-および語尾においては[x]として残った(前母音のあとでは[ç])。〉*6 MEでは〈[x][ç]を表すにはhのほかȝ, ȝh, ghの綴字が用いられるようになった〉*7。さらにModEになると〈ME h, gh [x][ç]は消失するか[f]音に変った〉*8

9. neun

独 neun [nɔʏ̯n] と英 nine [naɪ̯n] なので現代語だけ見るとこれまで見てきた中で一番似ていると思う。ただ、英語の方はOE nigon > ME nin といった発展を経ている。

10. zehn

独と英のzとtの違いは高地ドイツ語子音推移だろう。hは英語では早々に落ちている(OE tīen)。ドイツ語では新高ドイツ語において〈hの前の強勢のある開音節(母音で終わる音節)で長音化(Dehnung)が生じ、かつhは無音となったが、スペルではそのまま残されたので、hは長音の印と再解釈された:mhd. zehen /tse.hən/ > nhd. zehn /tseːn/。〉*9

*1:須澤通、井出万秀『ドイツ語史』郁文堂 2009, S. 171.

*2:田中美輝夫『英語アルファベット発達史』開文社叢書 1970, S. 177.

*3:A. L. Sihler New Comperative Grammear of Greek and Latin, Oxford Univ. Press 1995, S. 414.(389.7)

*4:須澤ほか a. a. O., S. 31.

*5:清水誠『ゲルマン語入門』三省堂 2012, S. 55.

*6:中島文雄『英語発達史 改訂版』岩波全書 1987, S. 99.

*7:Ebenda, S. 114.

*8:Ebenda, S. 128.

*9:荻野蔵平、齋藤治之『歴史言語学とドイツ語史』同学社 2015, S. 375.

ドイツ語入門(基数①)

1. eins/ein

基数として独立的に用いられる場合はeinsを用い*1(z. B.: Eins und zwei ist drei.*2)、「一つの」という意味ではeinを使う。〈不定冠詞einは、[…]数詞の「1」から発達したものだが、その後[…]文法化が進み、その機能が「数詞」から「同種のものの任意の一つ」の表示へと拡張した〉*3

英語でもoneとa/anは同根である。
数詞oneの音[wʌn]は、Gmc *ainaz > OE ān [ɑːn] > ME on [ɔːn] > [oːn] > [woːn] > [won] > [wʌn] という過程を経た地域的または社会的方言音が標準音に採り入れられた結果と考えられる。不定冠詞は数詞ānの弱形から派生した。*4〈なお、oneの語末の-eは、nの前の母音が長母音(その後二重母音となり、さらに短母音化)であることを示すために付加されたものである。〉*5

2. zwei

Gmc *twai から英語とドイツ語が分かれている。ドイツ語は高地ドイツ語子音推移によりt > zという変化を受けたのだろう。現在使われているzweiは中性形が起源のようである。
英語のtwoはOEの女・中性形twāからの発達(/twaː/ > /twɔː/ > /twoː/ > /twuː/ > /tuː/)である*6
ところで、英語にもcurtseyやbitsのように[t]+[s]の音連続は現れるが、前者は異なる音節に属し、後者は異なる形態素に属するために通常は破擦音とはみなされない。*7 音韻論的には英語には/ts/音はないわけであり、そのせいで語頭に[ts]が立たない(z. B.: tsunami /sunami/)のだろう。

3. drei

高地ドイツ語子音推移では〈歯音/d/は広い範囲で/t/へ推移した。このままなら新しい子音組織では/d/音が減少することになるが、これは実際にはas.*8 thrîa→ahd. drî(> nhd. drei 3)に見られるような/þ/→/d/の変化によって補われることとなる。〉*9
OEの〈þrēo(中性・女性)は、二重母音ēoがME初期に単母音化してthre [θreː]となり、次にこれが大母音推移により上昇してthree [θriː]となって現在に及んでいる。〉*10

4. vier

英語はGmc *feðwōr > OE fēowor > feōwor > ME foure, fower > ModE fourである。OEでアクセント転換による変形があった。*11
ドイツ語正書法規則の§22(2 Konsonanten)には[f]音は原則としてfと書くとあるが、§26(2.6 Besonderheiten bei [f] und [v])で[f]音をfの代わりにvと書くことがあるとし、vierもその例として挙げてある。

5. fünf

〈他のGmcの諸言語から区別されるOEの音変化の主要なものは次の通りである
[(5項目略)]
Gmc a, i, u+n (f, s, þ) ―― OE ō, ī, ū
[…]
OHG finf(Goth. fimf, ON fimm)――OE fīf(`five')〉*12
Dudenによると、ドイツ語は〈mittelhochdeutsch vünv, vunv, althochdeutsch funf, finf〉(Duden | fünf | Rechtschreibung, Bedeutung, Definition, Herkunft)という変化を経ているので、iがüとなったのは先行する[f]の影響による円唇化であろう。〈円唇化は、硬口蓋化と並ぶ二次調音で、「唇音化」(Labialisierung)とも呼ばれる。通時的には、唇音(Labial)の影響によって引き起こされる音韻変化を指す:mhd. leffel > nhd. Löffel; mhd. wirde > nhd. Würde。〉*13
OE fīfがModE fiveとなった経緯は、こちらの記事(堀田隆一「hellog~英語史ブログ」#1080. なぜ ''five'' の序数詞は ''fifth'' なのか?)に詳しく書かれている。

*1:在間進編『アクセス独和辞典 第3版』三修社 2010, S. 415. „ein“

*2:Ebenda., S. 421f. „eins“

*3:荻野蔵平、齋藤治之『歴史言語学とドイツ語史』同学社 2015, S. 93.

*4:宇賀治正朋『英語史』開拓社 2000, S. 187f.

*5:寺澤盾「第1章 古英語」片見彰夫ほか編『英語教師のための英語史』開拓社 2018, S. 15.

*6:寺澤芳雄編『英語語源辞典(縮刷版)』研究社 1999, S. 1476. „two“

*7:J. C. キャットフォード『実践音声学入門』竹林滋ほか訳 大修館書店 2006, S. 141.
ただし、curtseyは神山孝夫『日欧比較音声学入門』(鳳書房 1995)の註40で挙げられていたもの。キャットフォード本ではcatsupだったが、これは音が[tʃ]なので例として不適切な気がする。でも訳注もついてなかったし問題ないのか?
恥ずかしながら、最初見た時にcatsupがケチャップであることが分からなかった。ketchupとは単に書き方が違うだけで、品物としては違わないらしい。(Ketchup vs. catsup: Differences? None at all. (VIDEO))ケチャップだけにtomayto, tomahtoというわけである(これが言いたかっただけ)。

*8:altsächsisch. 古ザクセン語の

*9:須澤通、井出万秀『ドイツ語史』郁文堂 2009, S. 63

*10:宇賀治 a. a. O., S. 189.

*11:寺澤編 a. a. O., S. 534f. „four“

*12:中島文雄『英語発達史 改訂版』岩波全書 1987, S. 92.

*13:荻野ほか a. a. O., S. 37.