shaitan's blog

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outの意味

句動詞の意味的特性を予測することは不可能であることが多い。…もちろん、小規模の一般化を行うことは可能である。…それにもかかわらず、英語を外国語として学ぶ人なら誰でも知っている通り、句動詞は結局1つ1つ覚えていくしかないのである。

ジョン・R. テイラー『メンタル・コーパス*1

ここでいうところの〈小規模の一般化〉に興味がある。不変化詞の意味について自分なりのイメージをもつため、調べて考えたことを書き留めておく。今回はoutについて。

基本義

〈《(ある領域の)外に》が基本義。外に出る動きや外側にある状態を表す。〉*2 「外に」には移動の意味と状態の意味があるが、"out" はその両方の意味がある。*3 辞書や書籍によっては、これらのうち一方を基本義とし、他方を派生としている。
ウィズダム英和辞典』には〈out (of)の原義は「中から外へ」で、現代英語では「外へ[に]」の意を基本として、…〉*4とあり、移動が基本である。これは通時的な意味拡張を想定しているのだろう。Online Etymology Dictionaryのoutの項によると、「(位置や状況が)境界の外の」という意味は中英語期になってから記録されているようである。
これに対し、『英語前置詞の意味論』では「トラジェクターが有限ランドマークの外側にある」という空間関係を第一義としている*5。ここで、トラジェクター(TR)とは軌道に沿って移動する焦点要素であり、ランドマーク(LM)とはその背景要素のことである*6。著者らは〈多くの他の語類の単語とは異なり、空間辞の多くについては文献的証拠のある最も古い意義が現在でもなおそれらの語の共時的意味ネットワークにおける活きた主要要素なのである〉と主張し、歴史的に最も古い意義も考慮に入れているらしい*7 のだが、〈空間辞は…時間の流れの中で展開する関係を強調するのではない〉*8 としてあくまでも静的な図式を掲げている。

out of

AmEではドア・窓のような開口部を目的語にとり、through(…を通り抜けて)の意味の場合にはout ofよりoutの方が好まれる*9*10*11*12*13。このような例はあるものの、out が前置詞として機能することはめったにない。このoutとout ofの統語的振る舞いの違いは、outにおいてLMは潜在的で明示されないが、out ofにおいてはLMは顕在的で明示されることに対応している。*14

拡大

Rudzka-Ostyn(2003)はoutの語義の一つとして〈trajectors increasing to maximal boundaries〉を挙げている。例えば〈spread out the map〉は〈unfold or open the map to its maximal width, size〉であるという。*15 これは閉じた状態の地図の占める領域をLMとし、地図を広げた部分がLMの外にはみ出している、と考えればよいだけ*16で〈to maximal boundaries〉は余計ではないだろうか*17
この意味ではTRがLMより大きくなることでTRの一部が外側へ出るので、よくある基本の語義を表す図形(箱からボールが出る/箱の外側にボールがある、を抽象的に描いたようなもの)とはかなりイメージが異なる。
例文:〈The forest stretches out in all directions. 森は四方に延々と広がっている〉*18

出現・認識可能

Rudzka-Ostyn (2003)は「未知」や「不可視」などの概念を容器になぞらえている。

Interestingly, the (abstract) states of non-existance or of being unknown/invisible/silent, etc. can also be conceptualized as containers, and in order to express the fact that an object moves out of these states, we will use the particle out.

Brygida Rudzka-Ostyn, "Word Power: Phrasal Verbs and Compounds" *19

しかし、〈「出てくる」という意味から「出現」「公表」なども表す〉*20 と考える方が素直に思える。

消失

視点がLMの外部にあれば上記のように〈出現〉などになるが、内部にあれば逆に〈消失〉となる。
例文:〈When the firefighters got there, the fire was already out. 消防士たちが着いたときには火はすでに消えていた。〉*21

除外・逸脱など

タイラーほか(2002)では〈除外〉義について〈この意義で決定的に重要なのは、…outという状態が望ましくない状況を表すという考えである。〉*22としている。当書では〈逸脱〉義は挙げられていない(代わりに価値判断を含まない〈非定位置〉義が立ててある)が、動作主が異なるだけなので類似した語義としてまとめる方が分かりやすいように思う。
例文:〈John was out in his caluculations by $10. ≒ John was $10 out in his caluculations. ジョンは10ドルだけ計算を間違えていた〉*23〈Smoking on duty is out. 勤務中の喫煙は禁止だ〉*24
なお、逆にoutという状態の方が望ましい状況を表すものとして、〈(困難・危険などから)脱して〉という意味がある。
例文:〈There is no easy way out. 簡単な解決法がない〉*25

完了・終了

『表現英文法』には以下のような例と説明が載っている。

・You should work out the plan, since you proposed it.
自分で提案したのだから計画を最後まで実行すべきだ。

「完了(最後まで)」の out の例としてwork out a plan を考えてみましょう。計画を練って、アイデアが仕上がり、その計画を練る工程からアイデアを外へ出すと考えると「完了」の意味が理解できるでしょう。

田中茂範『表現英文法』[増補改訂第2版]*26

例文の方は、文全体の意味を考えると work out の意味として「考え出す/練り上げる」は不適切ということで「(苦労して)〈事を〉やり遂げる」という解釈になっているのであろうか。その後の説明の work out a plan は「計画を考え出す/練り上げる」なので少々紛らわしい。
『コンパスローズ英和辞典』にある例文〈We argued it out. 我々はそれを(結論が出るまで)徹底的に議論した。〉も同様に「出す」と「完了」の意味のつながりを感じさせる。ただし、この辞書では「すっかり、徹底的に」はコアイメージの「外に」の派生イメージ「残らずなくなって」に対応する語義として説明されている。*27
『英語語義語源辞典』によると、〈「尽き果てる」ということから、すっかり徹底的にの意〉*28とある。『オーレックス英和辞典』でも〈「最後まで」の意味は外に出尽くすところから〉*29 という説明である。
また、この意味変化発生の条件として「状態変化動詞のアスペクト的認知の相違」が国広により指摘されている。これによると、人は変化を「変化しつつある」と「変化が終了した」の二通りの認知をし、"the water drained out" のような場合に「水が出て容器が空っぽになる」という完了アスペクトで捉えることが〈完了〉義が生まれた原因であるという*30
以上の様々な説明はどれももっともらしいものの、他の不変化詞にも当てはまりそうな気もする。
なお、upも〈完了〉義をもつが、〈up が最終段階に焦点があり、すばやさを暗示するのに対して、out は過程の方により焦点がありある程度の時間がかかることを暗示する〉*31 という違いがあるらしい。
例文:〈School is out for the summer. 学校は夏休みだ / before the day[week] out その日[週]が終わる前に〉*32

*1:ジョン・R. テイラー『メンタル・コーパス西村義樹ほか[編訳] くろしお出版 2017, p. 113.

*2:山岸勝榮[編]『スーパーアンカー英和辞典』[第5版] 学研プラス 2015, p. 1263. "out"

*3:田中茂範『表現英文法』[増補改訂第2版] 2015, p. 550.

*4:井上永幸赤野一郎[編]『ウィズダム英和辞典』[第4版特装版] 三省堂 2019, p. 1424. "out"

*5:A. タイラー・V. エバンズ『英語前置詞の意味論』国広哲弥[監訳] 研究社 2005 [原著: Andrea Tyler and Vyvyan Evans, "The Semantics of English Prepositions" (2003)], pp. 245f.

*6:Ibid., p. 14.
この用語はR. Langacker "Foundations of Cognitive Grammar, vol. I" (1987)に出てくるものであるとのこと。

*7:Ibid., p. 57.

*8:Ibid., pp. 65f.

*9:R. Quirk et al., "A Comprehensive Grammar of the English Language", Pearson Educations 1985, p. 678.(9.18n)

*10:R. Huddleston and G. K. Pullum, "The Cambridge Grammar of the English Language", Canbridge Univ. Press 2002, p. 281.(§6.2)

*11:安藤貞雄『現代英文法講義』開拓社 2005, p. 638.(28.5.11)

*12:野村恵造ほか[編]『オーレックス英和辞典』[第2版] 旺文社 2013, p. 1401. (Planet Board 52: go out .../ go out of ... のどちらを使うか。)

*13:赤須薫[編]『コンパスローズ英和辞典』研究社 2018, p. 1317. "out of"

*14:タイラーほか op. cit, pp. 261-263.

*15:Brygida Rudzka-Ostyn, "Word Power: Phrasal Verbs and Compounds: A Cognitive Approach", Mouton de Gruyter 2003, p. 32.

*16:cf. タイラーほか op. cit., pp. 257f本文および監訳者注

*17:〈to maximal boundaries〉は〈完了〉義と解釈した方がしっくりくる。あるいはこういった状態変化は完了アスペクトで捉えるものなので、これも〈完了〉義の発生と関係があるのかもしれない。詳細は後述。

*18:野村ほか[編] loc. cit.

*19:Rudzka-Ostyn op. cit., p. 25.

*20:山岸[編] loc. cit.

*21:赤須[編] op. cit., p. 1315. "out"

*22:タイラーほか op. cit, p. 253.

*23:井上ほか[編] op. cit., p. 1425. "out"

*24:南出康世[編集主幹]『ジーニアス英和辞典』[第5版電子辞書版] 大修館書店 2014 , p. 1506. "out"

*25:Ibid.

*26:田中 op. cit., p. 551

*27:赤須[編] loc. cit.

*28:小島ほか[編]『英語語義語源辞典』三省堂 2007, p. 790. "out"

*29:野村ほか[編] op. cit., p. 1400. "out"

*30:タイラーほか op. cit., p. 251監訳者注

*31:井上ほか[編] op. cit., p. 1425. "out"

*32:Ibid.