shaitan's blog

長文書きたいときに使う.

朝鮮語

とある自然言語の勉強をはじめた。タイトルの通り朝鮮語であるわけだが、学問外的な政治の事情が絡むせいで我が国ではこの言語の呼称は不統一である。

朝鮮半島には、その政治的境界線を問わず一つの民族●●によって一つの言語が話されているという認識に立つならば、これを朝鮮語と呼ぶのは自然である。それに対して、韓という国家●●を単位とする言語の呼称を設けることは、朝鮮半島全域におよぶはずの言語を一つの国家だけに限定し、ことによると国境外にも話されている同一の言語を排除することになる点でふさわしくない。[傍点原文]

田中克彦『ことばと国家』*1

ただ、國立國語院(국립국어원)の定める大韓民國標準語(대한민국 표준어)であれば、(世間で一般に使われているよりずっと限定的な意味になるが)「韓国語」と呼んでも言語学者も文句はあるまい。標準語規定(표준어 규정)によると

표준어는 교양 있는 사람들이 두루 쓰는 현대 서울말로 정함을 원칙으로 한다.
(標準語は教養ある人々が一般的に使う現代ソウル語と定めるのを原則とする。)*2

표준어 규정 제1부 제1장 제1항*3

とあるが、〈ソウル語をそのまま全て標準語として受容するのではない[…]ソウルではㅟを単母音[ø]と発音せず、二重母音[we]と発音するが、標準語には単母音を標準発音として採択した。〉*4*5
手元の和書の学習書を見ると、<ㅟ>は二重母音[we]と発音すると書いてあるものばかりである。私が学ぶ上で目標とするのは具体的には韓国の正書法による若中年層の使うソウル言葉にあたるわけだが、それを含む大きな広がりを持った言葉であるという意味を込め、このブログでは(記事を書くことがあれば)朝鮮語と呼ぶことにする。

*1:田中克彦『ことばと国家』岩波新書 1981, p. 14.

*2:訳文は、李 翊燮ほか[著]、前田 真彦[訳]『韓国語概説』大修館書店 2004, p. 292. による。

*3:韓國語語文敎範 標準語規定 https://kornorms.korean.go.kr/m/m_regltn.do?regltn_code=0002

*4:李 翊燮ほか op. cit, pp. 293f.
原文は円唇前舌半狭母音が[ø]ではなく[ \phi ]になっている。文脈から無声両唇摩擦音[ɸ]でないことは分かるので別に困らないが、こういうのは校正ではじかれないのだろうか。

*5:표준어 규정 제2부 제2장 제4항
‘ㅏ ㅐ ㅓ ㅔ ㅗ ㅚ ㅜ ㅟ ㅡ ㅣ’는 단모음(單母音)으로 발음한다.
[붙임] ‘ㅚ, ㅟ’는 이중 모음으로 발음할 수 있다.