shaitan's blog

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ドイツ語入門(基数③)

11. elf

Gmc *ainlif- < *ainaz + *lif- であり、*lif-はPIE *leikw- (to leave)にさかのぼる。one left (over ten)の意。日本語だと「余一」(人名「与一」の語源とされる)といったところか。*1 〈古英語のendleofanは最初の要素en(d)は「1」の意味でleofanは現代英語のleft(残された)に対応し、[…]現代英語のelevenはendleofanの異形ellefneに由来する。〉*2

12. zwölf

これも11と同様に原義は「10かぞえて残り2」のGmc *twa- + *lif-。ドイツ語のöは円唇化によるもの?

13, 14, ..., 19. dreizehn, ..., neunzehn

ゲルマン語では11と12は上に述べた通りであるが、印欧語では一般には〈The numbers 11-19 were originally phrases, typically asyndetic, which tended to metamorpose into compounds by phonological developments. The basic form was `n ten' meaning `n plus ten'〉*3 らしい。
ドイツ語の場合、sechzehnとsiebzehnの語形は単純な語の結合とは異なる。発音はsechzehnではsが落ちた結果chは[ç]となり、siebzehnではenが落ちてbが音節末になるため[p]と発音される。
英語の場合、thirteenはME threteneの音位転換形より。fifteenはむしろfiveの方が例外(ドイツ語入門(基数①) - shaitan's blog)。eighteenはOE eahtatēneだったのでhaplologyだろうか。

20, 30, ..., 90. zwanzig, ..., neunzig

〈t(> th)>zz[sː]>z[s]の変化の結果は、標準ドイツ語でss[s], 長母音と二重母音の後ではß[s]と表記する。ß(< sz)「エスツェト」は、[引用者註:音節頭の]z, tz[ts]と区別して、母音に続くtに由来する無声音[s]を表す。[…]十の位を表す数詞はzwanzig「20」(英twenty)のように-zig[ツィヒ tsiç]だが、母音に後続するdreißig「30」(英thirty)だけが-ßig[スィヒ siç]となるのは、このためである。〉*4 なお、〈13の場合にdreissehnにならなかったのは、10 zehnという独立語が確立していて、語中音という意識が成立しえなかったからであろう。〉*5

21, 22, ..., 99. einundzwanzig, ..., neunundneunzig

OEでは、〈21など、1位の桁の数が1から9までである2桁の数字は、ドイツ語などに見られるような`1位数詞 and 10位数詞’の形式ān and twēntiġで表現された。この形式がME後期に、フランス語から流入した形式twenty-oneに次第に置き換えられ、以降これが確立して現代に至っている。〉*6 ところで、現代フランス語では21, 31, 41, 51, 61はvingt et un(e)のようにetがつくのだが、当時はどうだったのだろう。

100. (ein)hundert

OE hundredはPIE *ḱm̥tómに由来するhundと数字を意味する-redからなる。〈hund-が本来はONのように120を表したことは、100を表すため[の…]hundtēontiġ(cf. OHG zehanzug)のような言い方から知られる。*7[…]ゲルマン民族では本来12進法が用いられ、のちにおそらくキリスト教の影響で10進法に変わったらしい。アイスランドには12進法が部分的に最も遅くまで残り、ONでは100はtíu tigir(=*tenty), 110はellifu tigir(=*eleventy), 120は[…]hundrað, 1200はþúsund[…]といっていた。また70以上はOEでは語頭に[…]hundを加えるのが本来だが(cf. OE hundseofontiġ 70)、これもおそらく12進法に関係があると考えられる。〉*8

1000. (ein)tausend

語頭が英 th に対して独 t となっている。〈tausend に見られるd→tは例外的な子音変化(第三子音変化と呼ばれることがある)で、これは連声形(sandhi form: cf. sechs tausend, acht tausend)あるいは、意味の強調によるものか。〉*9

*1:寺澤芳雄編『英語語源辞典(縮刷版)』研究社 1999, S. 421. „eleven“

*2:寺澤盾「第1章 古英語」片見彰夫ほか編『英語教師のための英語史』開拓社 2018, S. 15.

*3:A. L. Sihler New Comperative Grammear of Greek and Latin, Oxford Univ. Press 1995, S. 417.(390)

*4:清水誠『ゲルマン語入門』三省堂 2012, S. 47.

*5:石川光庸『ドイツ語〈語史・語誌〉閑話』現代書館 2012, S. 11.

*6:宇賀治正朋『英語史』開拓社 2000, S. 186.

*7:それだけでは断言できない気がする。他にも何かしら根拠があるのだろう。

*8:寺澤芳雄編『英語語源辞典(縮刷版)』研究社 1999, S. 674f. „hundred“

*9:Ebenda, S. 1430f. „thousand“