shaitan's blog

長文書きたいときに使う.

ドイツ語入門(基数①)

1. eins/ein

基数として独立的に用いられる場合はeinsを用い*1(z. B.: Eins und zwei ist drei.*2)、「一つの」という意味ではeinを使う。〈不定冠詞einは、[…]数詞の「1」から発達したものだが、その後[…]文法化が進み、その機能が「数詞」から「同種のものの任意の一つ」の表示へと拡張した〉*3

英語でもoneとa/anは同根である。
数詞oneの音[wʌn]は、Gmc *ainaz > OE ān [ɑːn] > ME on [ɔːn] > [oːn] > [woːn] > [won] > [wʌn] という過程を経た地域的または社会的方言音が標準音に採り入れられた結果と考えられる。不定冠詞は数詞ānの弱形から派生した。*4〈なお、oneの語末の-eは、nの前の母音が長母音(その後二重母音となり、さらに短母音化)であることを示すために付加されたものである。〉*5

2. zwei

Gmc *twai から英語とドイツ語が分かれている。ドイツ語は高地ドイツ語子音推移によりt > zという変化を受けたのだろう。現在使われているzweiは中性形が起源のようである。
英語のtwoはOEの女・中性形twāからの発達(/twaː/ > /twɔː/ > /twoː/ > /twuː/ > /tuː/)である*6
ところで、英語にもcurtseyやbitsのように[t]+[s]の音連続は現れるが、前者は異なる音節に属し、後者は異なる形態素に属するために通常は破擦音とはみなされない。*7 音韻論的には英語には/ts/音はないわけであり、そのせいで語頭に[ts]が立たない(z. B.: tsunami /sunami/)のだろう。

3. drei

高地ドイツ語子音推移では〈歯音/d/は広い範囲で/t/へ推移した。このままなら新しい子音組織では/d/音が減少することになるが、これは実際にはas.*8 thrîa→ahd. drî(> nhd. drei 3)に見られるような/þ/→/d/の変化によって補われることとなる。〉*9
OEの〈þrēo(中性・女性)は、二重母音ēoがME初期に単母音化してthre [θreː]となり、次にこれが大母音推移により上昇してthree [θriː]となって現在に及んでいる。〉*10

4. vier

英語はGmc *feðwōr > OE fēowor > feōwor > ME foure, fower > ModE fourである。OEでアクセント転換による変形があった。*11
ドイツ語正書法規則の§22(2 Konsonanten)には[f]音は原則としてfと書くとあるが、§26(2.6 Besonderheiten bei [f] und [v])で[f]音をfの代わりにvと書くことがあるとし、vierもその例として挙げてある。

5. fünf

〈他のGmcの諸言語から区別されるOEの音変化の主要なものは次の通りである
[(5項目略)]
Gmc a, i, u+n (f, s, þ) ―― OE ō, ī, ū
[…]
OHG finf(Goth. fimf, ON fimm)――OE fīf(`five')〉*12
Dudenによると、ドイツ語は〈mittelhochdeutsch vünv, vunv, althochdeutsch funf, finf〉(Duden | fünf | Rechtschreibung, Bedeutung, Definition, Herkunft)という変化を経ているので、iがüとなったのは先行する[f]の影響による円唇化であろう。〈円唇化は、硬口蓋化と並ぶ二次調音で、「唇音化」(Labialisierung)とも呼ばれる。通時的には、唇音(Labial)の影響によって引き起こされる音韻変化を指す:mhd. leffel > nhd. Löffel; mhd. wirde > nhd. Würde。〉*13
OE fīfがModE fiveとなった経緯は、こちらの記事(堀田隆一「hellog~英語史ブログ」#1080. なぜ ''five'' の序数詞は ''fifth'' なのか?)に詳しく書かれている。

*1:在間進編『アクセス独和辞典 第3版』三修社 2010, S. 415. „ein“

*2:Ebenda., S. 421f. „eins“

*3:荻野蔵平、齋藤治之『歴史言語学とドイツ語史』同学社 2015, S. 93.

*4:宇賀治正朋『英語史』開拓社 2000, S. 187f.

*5:寺澤盾「第1章 古英語」片見彰夫ほか編『英語教師のための英語史』開拓社 2018, S. 15.

*6:寺澤芳雄編『英語語源辞典(縮刷版)』研究社 1999, S. 1476. „two“

*7:J. C. キャットフォード『実践音声学入門』竹林滋ほか訳 大修館書店 2006, S. 141.
ただし、curtseyは神山孝夫『日欧比較音声学入門』(鳳書房 1995)の註40で挙げられていたもの。キャットフォード本ではcatsupだったが、これは音が[tʃ]なので例として不適切な気がする。でも訳注もついてなかったし問題ないのか?
恥ずかしながら、最初見た時にcatsupがケチャップであることが分からなかった。ketchupとは単に書き方が違うだけで、品物としては違わないらしい。(Ketchup vs. catsup: Differences? None at all. (VIDEO))ケチャップだけにtomayto, tomahtoというわけである(これが言いたかっただけ)。

*8:altsächsisch. 古ザクセン語の

*9:須澤通、井出万秀『ドイツ語史』郁文堂 2009, S. 63

*10:宇賀治 a. a. O., S. 189.

*11:寺澤編 a. a. O., S. 534f. „four“

*12:中島文雄『英語発達史 改訂版』岩波全書 1987, S. 92.

*13:荻野ほか a. a. O., S. 37.