shaitan's blog

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ドイツ語入門(基数②)

6. sechs

Gmc *sehs [sexs] (Reconstruction:Proto-Germanic/sehs - Wiktionary)からの発達。
〈中高ドイツ語のsの前のhは、初期新高ドイツ語でmhd. vuhs [fuxs] > nhd. Fuchs [fuks](狐)のように、軟口蓋摩擦音[x]から閉鎖音[k]に変わった。〉*1
英語では〈X文字は[ks]の音価をもってOE以来用いられている〉*2 とのことなので、英語の方はOE siexの頃から[ks]だったのだろう。

7. sieben

PIE *septḿ̥ に対し Gmc *seƀun であるが、語尾の *-m̥ > *-un の変化からGmcの前は語尾に子音が続いていたと考えられ、ゲルマン語以外で見られる *-pt- がないことから、Gmcは*sepḿ̥tにさかのぼるらしい。*3
PIE *p は第一次子音推移によりGmc *fとなったが、〈ヴェルナーの法則[…]によれば、無声摩擦音f, þ, xとsは語中および語末において、これらの直前の音節にアクセントがある場合は無声のまま留まるが、直前の音節にアクセントがない場合は、有声化してƀ, đ, ǥおよびzとなる。〉*4 有声有気閉鎖音(bh/dh/gh/gwh)も第一次子音推移により有声摩擦音になった結果、〈ゲルマン祖語では摩擦音が著しく多いという類型論的な不均衡が生じた。それを解消するように[…]「有声摩擦音(ƀ/đ/ǥ/ǥw)>有声閉鎖音(b/d/g/gw)」の変化が続いたとされている。〉*5
ただし、OE seofonであり、英語の場合は[v]音で閉鎖音化はしていない。

8. acht

Gmc *ahtōu [ˈɑx.tɔːu̯](Reconstruction:Proto-Germanic/ahtōu - Wiktionary)の強勢のない第二音節が弱化して現代ドイツ語に至ったのだろう。
英語の方は〈Gmc h [x] はOEで[…]-ht, -hh-および語尾においては[x]として残った(前母音のあとでは[ç])。〉*6 MEでは〈[x][ç]を表すにはhのほかȝ, ȝh, ghの綴字が用いられるようになった〉*7。さらにModEになると〈ME h, gh [x][ç]は消失するか[f]音に変った〉*8

9. neun

独 neun [nɔʏ̯n] と英 nine [naɪ̯n] なので現代語だけ見るとこれまで見てきた中で一番似ていると思う。ただ、英語の方はOE nigon > ME nin といった発展を経ている。

10. zehn

独と英のzとtの違いは高地ドイツ語子音推移だろう。hは英語では早々に落ちている(OE tīen)。ドイツ語では新高ドイツ語において〈hの前の強勢のある開音節(母音で終わる音節)で長音化(Dehnung)が生じ、かつhは無音となったが、スペルではそのまま残されたので、hは長音の印と再解釈された:mhd. zehen /tse.hən/ > nhd. zehn /tseːn/。〉*9

*1:須澤通、井出万秀『ドイツ語史』郁文堂 2009, S. 171.

*2:田中美輝夫『英語アルファベット発達史』開文社叢書 1970, S. 177.

*3:A. L. Sihler New Comperative Grammear of Greek and Latin, Oxford Univ. Press 1995, S. 414.(389.7)

*4:須澤ほか a. a. O., S. 31.

*5:清水誠『ゲルマン語入門』三省堂 2012, S. 55.

*6:中島文雄『英語発達史 改訂版』岩波全書 1987, S. 99.

*7:Ebenda, S. 114.

*8:Ebenda, S. 128.

*9:荻野蔵平、齋藤治之『歴史言語学とドイツ語史』同学社 2015, S. 375.