shaitan's blog

長文書きたいときに使う.

頌栄女子学院中学校2021年理科

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保存力である重力と、列車の運動方向と垂直に働く垂直抗力のみを考えると、これらのする仕事は経路によらない*1。車両は路線を往復し(あるいは環状運転をし)、同じ駅に戻ってくるわけであるから、線路や他の駅がどのようになっていようが関係ない。〈輸送の理想的なエネルギー消費量はすべてゼロである。現実に輸送でエネルギーを消費する理由は摩擦があるからである。摩擦をどこまで減らせるかが輸送エネルギー低減のカギである。〉*2 日能研の「解答」「解説」には、ブレーキによる散逸(〈ブレーキをかけてエネルギーを無駄にする〉)や加減速の際の散逸(〈加速や減速のために使う電力〉)について言及がある。

縦断線形の工夫

縦断線形を工夫してランニングコストを節約しようという考え自体はかなり昔からあったようで、昭和9年(1934年)発行の『東京地下鐵道史 坤』には

線路勾配の設定、配置は列車運轉動力の消費に直接大なる關係があるので、下り勾配によつて得た惰力によつて列車が上り勾配を上る樣、又双方から上り詰めた所に停車場を置き出發にも停車にも容易な樣顧慮して設計すべきは勿論であるが、地勢、停車場に於ける中2階等に支配されて理想の勾配は仲々得られない。倂しながら都市高速鐵道の如く列車運轉囘數が多く、車兩走行哩が驚くべき數字に積算されるものは、單位毫厘の差額も年額としては巨額に達するのであるから、かゝる經濟的勾配に關し普通鐵道に數倍する調査硏究の價値があると謂ふ事ができるのである。

とある。この時代の日本の地下鉄のトンネルは主に開削工法で作られているが、この工法では〈トンネルの位置が深くなるほど、移動させる土砂の量が増え建設費が高くなる。〉*3 そのため、実際にはここでいう〈經濟的勾配〉とは逆に、駅が最も深く、駅間が浅くなっている。

すり鉢状の勾配

有楽町線新富町駅辰巳駅間)の縦断面図を見ると、駅からは急勾配(35‰かそれに近い勾配)の下り、そこから緩勾配区間を挟み、次の駅まで最急勾配の上り、という設計になっている*4。渡部史絵によれば、このような電車の走行条件に応じた「すり鉢状の勾配」は有楽町線以降、南北線の目黒駅~赤羽岩淵駅間、半蔵門線神保町駅住吉駅間、副都心線の一部などで採用されており、電車を動かすのに一か月にかかる電気代6億円に対し600万円の節約になっているという。*5 ただ、隅田川工区(新富町-月島間)について、『有楽町線建設史』には〈縦断線形は隅田川護岸基礎杭との離れと土被りを確保するため最急勾配の35/1000となっている。土被りは発進部で16m、到達部で14m、換気室付近で最大の24m、隅田川河底部では15mとなっている。〉としか書かれておらず、加減速の補助という記述までは見当たらなかった。*6 なお、駅の高低差が大きく単調な上り区間であっても、緩勾配のち急勾配となっている区間が見られ(下りであればその逆、要するに下に凸であるということ)、これも同様の工夫である可能性がある。

車両の工夫

省エネのため、車両にも工夫がなされている。一つには車両の軽量化である。1966年、営団地下鉄初のアルミ合金製車両が製造された。これは東西線の5000系車両であるが、従来のステンレス製5000系車両と外部見附寸法や各種機器類を同等にするという制約の下、約37%の構体質量の軽量化を達成している。*7 また、6000系車両ではチョッパ制御が採用されている。それ以前の抵抗制御法では不要な電気を熱にして散逸させていたが、チョッパ制御で回生ブレーキを使用することで著しい電力消費の節減が得られる。これには節電の他にも利点があり、熱の発生が抑えられることから、トンネル内における火災事故防止や温度上昇の抑制にもなっている。*8 綾瀬・霞ヶ関間運行時の実測によると、6000系車両の主回路電力の電力消費は5000系車両のそれの56%に抑えられており、寄与としては車体の軽量化により87%に、チョッパ制御によりさらにその64%になったと計算されている。*9
なお、〈今日、新たに製造される電車はほとんどが誘導電動機のVVVF制御で回生ブレーキ機能をもって〉*10おり、〈回生ブレーキで負担しきれない分を空気ブレーキで補うという電空協調システムを採用している。〉*11

*1:現実には駅間の移動にかかる時間を短くしたいため、列車を質点とし、動力と摩擦を無視すれば最急降下線であるサイクロイドが最適となるだろう。ここで摩擦だけでなく動力も無視するとわざわざ書いたのは、都営大江戸線のように非粘着駆動するリニアメトロがあるからである。

*2:小宮山宏『地球持続の技術』岩波新書 1999, p. 70.

*3:川辺謙一『図解 地下鉄の科学』講談社 2011, p. 99.

*4:帝都高速度交通営団[編]『東京地下鉄道有楽町線建設史』1996, 別図 有楽町線線路平面図及び縦断面図 https://metroarchive.jp/content/ebook_yurakucho.html/

*5:渡部史絵『地下鉄の駅はものすごい』平凡社新書 2020, pp. 62-64.

*6:帝都高速度交通営団[編] op. cit., p. 686

*7:帝都高速度交通営団[編]『東京地下鉄道千代田線建設史』1983, p. 900.

*8:Ibid., pp. 928f.

*9:Ibid., pp. 954ff.

*10:望月旭「第6章 直流電車技術の変遷」電気鉄道技術史編纂委員会[著]『電気鉄道技術変遷史』オーム社 2014, p. 184.

*11:今井直人「4章 ブレーキ装置」近藤圭一郎[編]『鉄道車両技術入門』オーム社 2013, p. 115.