shaitan's blog

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ごまかし

広辞苑』では「ごまかし」の語源として〈胡麻胴乱(ごまどうらん)を「ごまかし(胡麻菓子)」と言ったことから〉*1としている。孫引きになるが、『新明解語源辞典』によると『新潮現代国語辞典二版』も「ふくらんで中空の『胡麻菓子』から」としているらしい*2
胡麻胴乱は『松屋筆記』*3 によると

小麥粉をときて胡麻をまぜ燒ふくらがしたるが見たる貌はうまげにていとまづく中に餒[ママ]のありげなれどもさもなくて空なれば食にたへざる粗物也これを容貌美嚴にして思慮愚昧なる者のたとへにいへり

というお菓子。酷い言われようである。
『假名世説』では、『国町の沙汰』*4から江戸の名物が多く出てくる話を引用した後に

延宝の頃の江戸の名物こゝに盡せり此頃いまだ両国橋の幾代もち金龍山の浅草餅本郷笹屋のごまどうらん鎌倉がし豊島屋の大田楽市谷左内坂の粟焼などハなしと見えたり

と名前が挙がっているところを見ると、名物ではあったらしい。*5

しかし、「ごまかし」の語源を胡麻胴乱に求めることについて、『日本語源大辞典』には〈妥当ではないだろう。〉とある。根拠は特に書かれていないが、〈容貌美嚴にして思慮愚昧なる者〉と「ごまかし」では意味に隔たりがあるのは気になる。
『大言海』は〈ごまのはひノごまニ、まぎらかす、だまかすナドノ、かすヲ附ケアハセタルナドニハアルマジキカ〉*6としており、「胡麻菓子」説は採っていない。こちらの説も〈ナドニハアルマジキカ〉と弱気だし、つまるところ語源はよく分からないのである。

*1:新村出編『広辞苑第五版』岩波書店 1998, 「ごまかし」[電子辞書版]
新村出編『広辞苑第七版』岩波書店 2018, 「ごまかし」[電子辞書版]

*2:小松寿雄鈴木英夫編『新明解語源辞典』三省堂 2011, p. 391. 「ごまかす」

*3:松屋筆記. 第3 - 国立国会図書館デジタルコレクション 卷百九「(廿七)見かけだほし」

*4:国文学研究資料館 一本草・国町の沙汰 国町の沙汰: 画像ファイル名一覧 (被引用部分は 200012885_00011.jpg, 200012885_00012.jpg)

*5:新日本古典籍総合データベース 杏花園/蜀山 編『假名世説』

*6:大槻文彦『新訂大言海冨山房 1956, p. 724.「ゴマかす」