神話
シュメールでは『ギルガメッシュ叙事詩』などの宗教文学が発達し、のちにセム系諸民族に伝わって大きな影響を与えた。
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ギルガメシュ神はアッカド語(セム系)の名であり、「本来はシュメルの冥界神で、シュメル語でビルガメシュ神という。…[略]…シュメル語で書かれた複数のビルガメシュを主人公とした物語のなかから取捨選択して、アッカド語の『ギルガメシュ叙事詩』が編纂された」*1ことを考えると、「『ギルガメッシュ叙事詩』の原型となった物語などの」のように書いた方が正確ではないか。
『旧約聖書』にある「ノアの洪水神話」もシュメール神話が起源である。
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この例に限らず、旧約聖書にはメソポタミア起源と考えられているものがある。「バビロニアの叙事詩の宇宙創成神話は、少なくとも大筋において、祭司資料、イザヤ記[ママ]、ヨブ記、詩篇の…[略]…宇宙創成論の母型になっている。…[略]…[これらの]聖書文書は、イスラエルがメソポタミアに大捕囚となった後のものである。こう考えると、宇宙創成神話を、どこから借用したかを決めるのは困難ではない。」*2
占星術や天文・暦法も発達した。
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「メソポタミアにおける広い意味の星占い、あるいは天の前兆占いは、紀元前16世紀あたりから始まったとみることができる。…[略]…『エヌーマ・アヌ・エンリル』と呼ばれる一群の粘土板テキスト…[略]…は紀元前1000年頃までの天の前兆を集めたものであり、『もし天で甲という現象が起こると、地上では乙という現象が起こる』というパターン化された表現で前兆が何千も記録されている。」*3
メソポタミアの「絶対年代確定の基になっているのがバビロン第一王朝のアンミ・ツァドゥカ王の治世21年間の『金星の観測記録』*4で…[略]…この観測記録に合致すると思われる複数の年代の中から同王治世1年にあたる年は…[略]…前1702年説、前1646年説および前1582年説の3つが残り、それぞれ高年代説、中年代説、低年代説と呼ばれている。…[略]…現在のところ、メソポタミア史の分野では中年代説が一般的であ」*5る。『詳説世界史研究』も中年代説を採用している。
原理的な考察
おおむねメソポタミア文明ではこのように実用的な文化が発達した反面、実用を超えた原理的な考察は発達しなかった。
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「実用を超えた原理的な考察」というのはイオニア自然哲学のようなものを指しているのだろうか。そうだとしても「反面」以下をわざわざ書く必要はないように思われる。
[2022.2.18追記]
古代バビロニアでは二次方程式が解かれているが、その際には「面積」に「長さ」を加える操作などがされており、これらは幾何学的な意味ではなく抽象的な意味で使われていたことがわかる。*6更に、単に答えの数値を出すことではなく、一般的な手順を示すことを目的として書かれたと考えられる問題集が存在する。例えば、係数が偶然1であったとしても、1を掛けるという手順がはっきりと示されているなど、具体的な数値が使われていても一般的な代数的操作を表している。*7 古バビロニア時代では数学は単なる実用の域を越えて体系的な学問へ発展していったのである。*8
絵文字から発達したシュメールの楔形文字
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ここで「絵文字」と言われているのはウルク古拙文字のことであろう。「絵文字」といっても、〈一般的にみられた記号は抽象的なものであった。たとえば「金属」を表す記号は三日月形に5本の線が入ったもの、「羊」を表す「絵文字」は丸のなかに十字の入ったものであった。〉*9 デニス・シュマント=ベッセラは、このウルク古拙文字の起源はトークンであるとする。トークンとは、物品の数量管理のために使用された小さな粘土製品であり、計算される財ごとに形状は異なっていた。トークンでは数量と形状は不可分に結びついていたが、粘土板に書かれるようになってから、数字と計量対象の分離が起こった。〈たとえば、ウルク出土の1枚の粘土板文書には、「羊5単位」を表す勘定が[…]「羊」を表す絵文字(十字のついた円形)と、「5」を意味する5つの楔形の押印記号で記されている。〉*10〈絵文字は、ひとたびあらゆる数の概念から切り離されると、それ独自の進化を遂げることとなった。それまで財の勘定を記録するために用いられていたシンボルは、人間のあらゆる営みを伝達するように拡大していった。〉*11