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evidencesについて その2

shaitan.hatenablog.com
上記記事では主に英米の標準変種しか考慮していなかったが、Inner Circle*1の外にも英語の世界は広がっている。
英字日刊紙の中では世界一の発行部数を誇るThe Times of Indiaのネット記事でもevidencesは頻繁に使われている("evidences" site:https://timesofindia.indiatimes.com/ - Google 検索)。
矢野安剛によれば、〈equipments、evidences、fictions、furnitures、informations、a researchのように、不可算名詞を可算名詞扱いにするの[…]は広くアジア、アフリカ、ヨーロッパなどのノンネイティブの英語話者に共通している現象です。〉 *2 とのことである。前回の記事で触れたacademic Englishについても、使用者にノンネイティブが多いことが可算名詞としての用法が見られることと関係がありそうである。
さらに〈[ノンネイティブの英語では]同じ概念や対象を抽象物として見るか、具象物として捉えるかによって不可算名詞となったり、可算名詞となったりします。この二重性はノンネイティブ英語話者のそれぞれの母語の影響かもしれません〉*3とある。日本語については、樋口昌幸が〈日本人がしばしばevidenceを[C]として誤用するのは、日本語では「証拠」と「証拠品」との区別が判然としていないことに起因すると思われる。〉*4と述べている。他の言語ではどうなのか気になるところである。

[2021. 3. 28. 追記]
そもそも、ノンネイティブの英語に限らずとも、言語一般において、〈〈数〉の表示の仕方を究極的に決めるのは、名詞の指示対象が具体性のある〈個体〉か、個体性のない〈抽象体〉かということではなく、話し手が対象をいずれに捉えるかという〈主体的〉な営みの問題なのである。〉*5 池上嘉彦はこのように述べ、〈英語の 'advaice', 'evidence' , 'knowledge' など*6は普通単数の形でしか用いられないが、これらとほぼ意味的に対応するフランス語やドイツ語の単語だと、複数形('conseils', 'preuves', 'connaissances';'Ratschläge', 'Beweise', 'Kenntnisse')で用いることが可能である(Mufwene 1984*7。少し前までなら、これらは言語のまぎれもない〈恣意性〉を示唆する証拠ということで取りあげられたことであろう。これらは人間の認知の営みにとっては何が可能であるかを示唆する興味深い事実である。〉*8とする。

*1:〈英語母語話者の世界のことをWorld Englishes(世界諸英語)研究の用語でInner Circleと呼びます。これは直訳すれば「内輪うちわ」です〉
日野信之「母語話者英語と非母語話者英語:非母語話者英語の正当性を主張する論理」本名信行・竹下裕子編著『世界の英語・私の英語 多文化共生社会をめざして』桐原書店 2018, p. 21.

*2:矢野安剛「マレーシアの英語」本名・竹下編著 op. cit., p. 58.

*3:矢野 loc. cit.

*4:樋口昌幸『[例解] 現代英語冠詞事典』大修館書店 2003, pp. 61f.

*5:池上嘉彦『「日本語論」への招待』講談社 2000, p. 101.

*6:ここは原文では「'evidence' , 'advaice', 'knowledge' など」の順になっているが、対応するフランス語とドイツ語に合わせて並べ替えた。

*7:Mufwene, Salikoko. "The count/mass distinction and the English lexicon." In David Testen & Veena Mishra (eds.), Papers from the Parasession on Lexical Semantics (1984), pp. 220-221.
[未読]

*8:池上 op. cit., pp. 104f.