shaitan's blog

長文書きたいときに使う.

東大2024年前期理系問題2

2024 東京大学 前期MathJax
(1)
t=\tan\thetaと置換すると、f(x)=\displaystyle\int_0^{\frac\pi4}|\tan\theta-x|\mathrm{d}\thetaとなる。
ここで、右辺は\theta u平面においてu=\tan\theta, u=x, \theta=0, \theta=\dfrac\pi4で囲まれた領域の面積である。この面積は\displaystyle\int_0^xg(u)\mathrm{d}u+\int_x^1\left[\dfrac\pi4-g(u)\right]\mathrm{d}uに等しい。ただしg(u)0\leq\theta\leq\dfrac\pi4の範囲における\tan\theta逆関数である。
この面積がf(x)に等しいので、f'(x)=2g(x)-\dfrac\pi4である。求める実数\alpha0<\alpha<\dfrac\pi4よりg(\tan\alpha)=\alphaであることに注意して、x=\tan\alphaを代入すると0=f'(\tan\alpha)=2\alpha-\dfrac\pi4より\alpha=\dfrac\pi8となる。
(2)
AB=AC=1であるような直角二等辺三角形を考える。∠Bの二等分線とACの交点をDとする。このとき、BA:BC=DA:DCなので、\tan\dfrac\pi8=\dfrac{\mathrm{AD}}{\mathrm{BA}}=\dfrac{\mathrm{AD}}{\mathrm{AD}+\mathrm{DC}}=\dfrac{\mathrm{AB}}{\mathrm{AB}+\mathrm{BC}}=\dfrac1{1+\sqrt2}=\sqrt2-1となる。
(3)
h(x)=\displaystyle\int_0^x\tan\theta\mathrm{d}\thetaとおくと、h(x)=-\ln|\cos x|=-\dfrac12\ln\cos^2x=-\dfrac12\ln\dfrac{\cos2x+1}2である。
f'(x)の符号を考えると、最小値は、
f\left(\tan\dfrac\pi8\right)=\displaystyle\int_0^{\frac\pi8}\left(\tan\dfrac\pi8-\tan\theta\right)\mathrm{d}\theta-\displaystyle\int_{\frac\pi8}^{\frac\pi4}\left(\tan\dfrac\pi8-\tan\theta\right)\mathrm{d}\theta=-2h\left(\dfrac\pi8\right)+h\left(\dfrac\pi4\right)=\ln\dfrac{1/\sqrt2+1}2-\ln\dfrac1{\sqrt2}=\ln\dfrac{1+\sqrt2}2である。
また、f'(x)の符号を考えると、最大値はf(0)f(1)である。
0\leq\theta\leq\dfrac\pi4の範囲では、\tan\thetaは下に凸であるから\tan\theta\leq\dfrac4\pi\thetaである。この両辺を\thetaについて0から\dfrac\pi4まで積分してf(0)\leq\dfrac\pi8が得られる。ここで、(1)の\theta u平面における面積を考えるとf(0)+f(1)=\dfrac\pi4であるからf(0)\leq\dfrac\pi8\leq f(1)となる。したがって最大値は、
f(1)=\displaystyle\int_0^{\frac\pi4}\left(1-\tan\theta\right)\mathrm{d}\theta=\dfrac\pi4-h\left(\dfrac\pi4\right)=\dfrac\pi4-\dfrac12\ln2である。


(2)は素直に半角の公式でいいと思います。
(3)は必要なかったので0.69< \log2< 0.7であることを用いていません。

お金って何?

以前、メルカリで「金銭と同等に扱われるもの」について書いた。
shaitan.hatenablog.com
このときは貨幣についてあまり掘り下げずに「流動性」で済ませてしまったが、今回はこれをもう少し考えてみたい。

先日、貨幣博物館を見学したが、導入展示の説明には以下のように書かれていた。

「お金」にはいくつかの特徴があります。
・さまざまなものと交換できる
・さまざまな人の間で誰でも使うことができる
・使いたい時まで貯めておくことができる

これはフォンヘーゲン(2014)*1の貨幣観を参考にしたものであり、歴史的に貨幣として使われてきたものの持つ性質――交換可能性、無名性、貯蔵可能性――に着目した説明である。*2。貨幣の起源や本質についていくつかの説が存在するが、この説明はそれらの説のいずれにも依存せずに済むという利点がある。

交換可能性

村社会における「ゆい」は互助的な共同活動である。山口県最西端の島、蓋井島下関市吉母の北西約6キロメートル、響灘に浮かぶ面積2平方キロ強の小さな島である。ここでは結の加勢を受けた家では感謝の印としてサイダーを贈るしきたりになっている。これは一見、サイダー(外来の工業製品であり、贅沢品である)が貨幣の機能を持っているように見える。しかし、サイダーは労働の対価ではなく、その贈与によって労働の負債をなくすことはできない。結による労働の負担は必ず労働力によって償わねばならないのである。*3 このことから分かるように、「交換できる」とは交換した後に貸し借りがなくなることが含意されている。

無名性

〈ヤップ島の石貨や貝貨は、カヌー、ブタ、ヤシ酒の購買の支払い(プルワン)、労務の謝礼(タリン)など、商品交換における貨幣に類似して、サービス、ないし品物の支払い手段としても使用されている。〉*4 しかし、これらは「貨幣」とは異なった働きをもつ。石貨はそれぞれが誰が何と交換したかの歴史をもっており、名前さえついているものがある。つまり、貨幣とは異なり、代替が不可能なものである。*5 このような性質から、「石貨」と呼ばれているものは正確には〈円盤状に加工した石製の貴重品あるいは富〉と表現すべきとされる*6

貯蔵可能性

1985年から96年の3月までにザイール(現コンゴ民主共和国)の通貨「ザイール」は対ドルレートで実に12億分の一に下落している。ハイパーインフレは既存の貨幣の貯蔵可能性を著しく損なう。そのため通貨は受け取りを拒否され、交換手段としても使用されなくなる。その代わりに都市では米ドル札が取引に使われ、田舎では物々交換が行われた。*7

*1:Von Hagen, Jürgen, “Microfoundations of the use of money,” Von Hagen, Jürgen and Welker. Michael eds., Money as God? The Monetization of the Market and its Impact on Religion, Politics, Law and Ethics, Cambridge University Press, 2014, pp.25-6. [未読]

*2:鎮目雅人「貨幣に関する歴史実証の視点 ―貨幣博物館リニューアルによせて―」p. 4. 日本銀行金融研究所貨幣博物館日本銀行金融研究所貨幣博物館 常設展示リニューアルの記録』2017 所収 調査・研究 - 貨幣博物館 > https://www.imes.boj.or.jp/cm/research/kinken/mod/cm_201703naritachi.pdf

*3:小馬徹「人間とカネ」小馬徹[編]『カネと人生』雄山閣 2002, pp. 127-130.

*4:牛島厳「携えるカネ、据え置くカネ」 ibid., p. 79.

*5:Ibid. pp. 85-94.

*6:Ibid., p. 78.

*7:澤田昌人「パニックの40年」ibid., pp. 179-204.

名古屋大学2007年前期文系問題1

2007 名古屋大学 前期MathJax

BCの中点をMとおく。
\dfrac{\mathrm{BA}}{\mathrm{AA'}}\cdot\dfrac{\mathrm{A'A''}}{\mathrm{A''B}}\cdot\dfrac{\mathrm{B'M}}{\mathrm{MB}}=\dfrac32\cdot\dfrac21\cdot\dfrac13=1
であるから、△A'BB'についてメネラウスの定理の逆よりA, A'', Mは共線である。
これより、AA''は△ABCの重心を通る。BB'', CC''についても同様であるから直線AA'', BB'', CC''は△ABCの重心で交わるが、これが示すべきことであった。


BC, CAを1:2に内分する点をそれぞれP, Qとおき、A'B'とPQの交点をRとする。△A'QR∽△B'RPであり、相似比は2:1なので、A'R:RB'=2:1、つまりRはA''に等しい。
△ABCの重心GはA'Qの中点なので、PB'の中点をMとすると、G, R, Mは共線である。
ここで、MはBCの中点でもあるので、G, M, Aは共線である。これらより、A, A'', Gが共線であることがいえる。BB'', CC''についても同様なので直線AA'', BB'', CC''は△ABCの重心で交わるが、これが示すべきことであった。



この問題でABをk:lに内分した点をA', ..., A'B'をk:k-lに内分した点をA'',... としても同様のことが成り立ちます。

名古屋大2007年前期文系問題3(b)

2007 名古屋大学 前期MathJax

操作1回ごとに玉の数が増えるので、N回引くときの全ての引き方の場合の数は(N+1)!通り。
操作をN回繰り返して赤玉が袋の中にm個あるためには、赤玉をm-1回引く必要があり、赤玉を1回引くごとに赤玉の数が増えるので赤玉の引き方は(m-1)!通り。同様に白玉の引き方は(N-m+1)!通り。
したがって、p_N(m)=\dfrac{(m-1)!(N-m+1)!}{(N+1)!} であり((2)の答)、
特に、p_3(m)=\dfrac{(m-1)!(4-m)!}{24} となる((1)の答)。


理系も「白玉」を「赤でない玉」にすれば数字が1ずれるが同様に解ける。

名古屋大2007年後期理学部問題3

2007 名古屋大学 後期理学部MathJax
[解1]
どの2点を通る直線とも垂直にならないように平面上にx軸を取る。各点のx座標の小さい方から順に2点ずつ組にすれば線分は交わらない。


[解2]
n本の線分の長さの総和を考える。組の作り方は有限なので、長さの総和には最小値が存在する。この最小値を与える組では線分は交わらない。
以下、それを示す。最小値を与える組を考え、そのうちの任意の二本の線分(AB、CDとおく)を考える。
四点A,B,C,Dが一直線上にある場合、ABとCDが共有点を持たないような組であるときに線分の長さの和が最小になることが明らかである。
四点A,B,C,Dが一直線上にない場合、ABとCDが共有点Pを持つと仮定すると、三点ADPとCBPのいずれかは三角形を作るので、三角不等式よりAB+CD=AP+PB+CP+PD>AD+CBが成り立つが、これは最小値を与える組であることに反する。
以上より示された。


問題文を「平面上の『相異なる』2n個の点」、「交わる」は「共有点を持つ」と解釈した。仮に出題者の意図が「点は同一の可能性もあり、『交わる』とは端点以外で共有点を持つことをいう」であれば完全に読み違えたことになってしまうが。



[2024.2.10追記]
この手の問題は普通はどの3点も同一直線状にないものだが、受験生に場合分けをさせたかったのだろうか。以下の類題はいずれもその条件が付いている。
2023年の浅野中学校入試問題として解2の方針の誘導付きのものが使われている*1
点が2種類に分けられており、異種の点同士でなければ組にできないという条件を付けた問題もある。この問題は1979年に開催された40th William Lowell Putnam Mathematical Competition の Probrem A4で出題されており*2、また、2016年に企業が採用活動の一環としてこの問題を出題している*3。この条件が付くと解1の方針では解けなくなるが、解2の方針ならほぼ同様に解ける。点の数の帰納法を使ってもよい*4のだが、さすがにそれと比べると解2の方がエレガントである。

名古屋大1962年前期理系問題4

g(x)=f(2x+1), h(x)=\dfrac{g(x)+g(-x)}2とおく。h(x)は三次以下の偶関数なのでax^2+bとおくと、
\displaystyle\int_0^1f(x)\mathrm dx=\dfrac12\int_{-1}^1g(x)\mathrm dx=\int_0^1h(x)\mathrm dx
\displaystyle=\dfrac{a}3+b=h\left(\dfrac1{\sqrt3}\right)=\dfrac12\left\{g\left(\dfrac1{\sqrt3}\right)+g\left(-\dfrac1{\sqrt3}\right)\right\}
=\dfrac12\left\{f\left(1+\dfrac2{\sqrt3}\right)+f\left(1-\dfrac2{\sqrt3}\right)\right\}
であるから示された。



存在を示せばいいので求める必要はないが、計算して等号でつないでしまうのが手っ取り早い。試験場だと、線形性からf(x)=x^nの場合だけ考えれば十分として\dfrac{p^n+q^n}2=\dfrac1{n+1}n=0, 1, 2, 3)を解くのが素直か。
問題の元ネタはGauss–Legendre公式。
参考:
manabitimes.jp



[元ネタに忠実な別解]
g(x)=\dfrac{\mathrm d^2}{\mathrm dx^2}\left\{x^2(x-1)^2\right\}とおく。
g(x)は二次式なのでf(x)=h(x)g(x)+ax+bとおける。ただし、h(x)は一次の多項式a,bは定数である。
ここで、\displaystyle\int_0^1h(x)g(x)\mathrm dx = \biggl[h(x)\dfrac{\mathrm d}{\mathrm dx}\left\{x^2(x-1)^2\right\}\biggr]_0^1-h'(x)\biggl[x^2(x-1)^2\biggr]_0^1=0が成り立つので\displaystyle\int_0^1f(x)\mathrm dx =\int_0^1(ax+b)\mathrm dx=\dfrac a2+bとなる。
さて、x^2(x-1)^2x=0, 1で極小となり、その間で極大となるので中間値の定理よりg(x)は実根を二つ持つ。それらをそれぞれp, qとおくと、g(x)x=\dfrac12に関して対称なのでp+q=1となる。また、f(p)=h(p)g(p)+ap+b=ap+b、同様にf(q)=aq+b、これらより\dfrac12\left\{f(p)+f(q)\right\}=\dfrac a2+bとなり、与えられた関係式を満たす。


y=x^2(x-1)^2のグラフが変曲点を二つ持つということなので明らかだが、説明するとなると面倒である。上のが説明になってるかどうかもよく分からん。変なことせずに微分の計算した方がいいのだが、p, qの値を求めないで解こうとするとこんな感じか。



1978年前期文理共通問題1も同様の問題である(積分区間が[-1, 1]となり、被積分関数が5次式になっている。証明ではなく係数を求める問題)。

名古屋大1970年前期文理共通問題2

2根を\alpha, \betaとおく。このとき|\alpha|\geq|\beta|としてよい。|\alpha|>1と仮定して矛盾を導く。
根と係数の関係より、与えられた条件は|\alpha+\beta|+|\alpha\beta|<1…(*)である。
これより|\alpha+\beta|<1<|\alpha|であるから、|\alpha+\beta|=|\alpha|-|\beta|となる。
これを(*)に代入して整理すると(|\alpha|-1)(|\beta|+1)<0であるがこれは仮定に反する。よって示された。