shaitan's blog

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お金って何?

以前、メルカリで「金銭と同等に扱われるもの」について書いた。
shaitan.hatenablog.com
このときは貨幣についてあまり掘り下げずに「流動性」で済ませてしまったが、今回はこれをもう少し考えてみたい。

先日、貨幣博物館を見学したが、導入展示の説明には以下のように書かれていた。

「お金」にはいくつかの特徴があります。
・さまざまなものと交換できる
・さまざまな人の間で誰でも使うことができる
・使いたい時まで貯めておくことができる

これはフォンヘーゲン(2014)*1の貨幣観を参考にしたものであり、歴史的に貨幣として使われてきたものの持つ性質――交換可能性、無名性、貯蔵可能性――に着目した説明である。*2。貨幣の起源や本質についていくつかの説が存在するが、この説明はそれらの説のいずれにも依存せずに済むという利点がある。

交換可能性

村社会における「ゆい」は互助的な共同活動である。山口県最西端の島、蓋井島下関市吉母の北西約6キロメートル、響灘に浮かぶ面積2平方キロ強の小さな島である。ここでは結の加勢を受けた家では感謝の印としてサイダーを贈るしきたりになっている。これは一見、サイダー(外来の工業製品であり、贅沢品である)が貨幣の機能を持っているように見える。しかし、サイダーは労働の対価ではなく、その贈与によって労働の負債をなくすことはできない。結による労働の負担は必ず労働力によって償わねばならないのである。*3 このことから分かるように、「交換できる」とは交換した後に貸し借りがなくなることが含意されている。

無名性

〈ヤップ島の石貨や貝貨は、カヌー、ブタ、ヤシ酒の購買の支払い(プルワン)、労務の謝礼(タリン)など、商品交換における貨幣に類似して、サービス、ないし品物の支払い手段としても使用されている。〉*4 しかし、これらは「貨幣」とは異なった働きをもつ。石貨はそれぞれが誰が何と交換したかの歴史をもっており、名前さえついているものがある。つまり、貨幣とは異なり、代替が不可能なものである。*5 このような性質から、「石貨」と呼ばれているものは正確には〈円盤状に加工した石製の貴重品あるいは富〉と表現すべきとされる*6

貯蔵可能性

1985年から96年の3月までにザイール(現コンゴ民主共和国)の通貨「ザイール」は対ドルレートで実に12億分の一に下落している。ハイパーインフレは既存の貨幣の貯蔵可能性を著しく損なう。そのため通貨は受け取りを拒否され、交換手段としても使用されなくなる。その代わりに都市では米ドル札が取引に使われ、田舎では物々交換が行われた。*7

*1:Von Hagen, Jürgen, “Microfoundations of the use of money,” Von Hagen, Jürgen and Welker. Michael eds., Money as God? The Monetization of the Market and its Impact on Religion, Politics, Law and Ethics, Cambridge University Press, 2014, pp.25-6. [未読]

*2:鎮目雅人「貨幣に関する歴史実証の視点 ―貨幣博物館リニューアルによせて―」p. 4. 日本銀行金融研究所貨幣博物館日本銀行金融研究所貨幣博物館 常設展示リニューアルの記録』2017 所収 調査・研究 - 貨幣博物館 > https://www.imes.boj.or.jp/cm/research/kinken/mod/cm_201703naritachi.pdf

*3:小馬徹「人間とカネ」小馬徹[編]『カネと人生』雄山閣 2002, pp. 127-130.

*4:牛島厳「携えるカネ、据え置くカネ」 ibid., p. 79.

*5:Ibid. pp. 85-94.

*6:Ibid., p. 78.

*7:澤田昌人「パニックの40年」ibid., pp. 179-204.