shaitan's blog

長文書きたいときに使う.

「正しい」日本語

twitterでは(少なくとも私のTLでは)日本語の「誤用」の例示をして憤ったり呆れたりしてみせるツイートがしばしば話題になる。こういう例を見たとき、自分が気にならないときは


という風に他人事でいられるが、気に入らずに多少は不快になってしまうこともある。しかし、だからといってそれを「正誤」の基準にできないことはいうまでもない。
単に使っているだけの人に難癖をつけるのは非常に難しい。
それに対して、誤用であるという主張に対しては自身が基準を明確にしているからまだ突っ込みやすい。
好例として、「高嶺/根(の花)」がある。「嶺」が常用漢字表にないため新聞用語集では「高根の花」とすることになっており、多くの人が違和感を覚えるようである*1。私も昔はこの「誤用」を許せないと怒りを露わにした(ふりをした)ことがある*2

辞書にも「高根の花」に否定的な書きぶりなものがある*3

「高根」は新聞で使う代用表記。「嶺(ね)」は「みね(御根)」の意で、「根(ね)」と本来同語源とされるところから「高根」とする。

明鏡国語辞典第二版』(電子辞書版)「たかね【高嶺(高根)】」

ただ、正保版本『二十一代集』には「高根」が見られる*4など、必ずしも歴史のない表記ではない。『新訂大言海*5でも、「高根」を〈普通用ノモノ〉*6として挙げており、「高嶺」は「峻嶺」とともに他の用字として載っている。
明鏡のような辞書の記述も誤解を招きうるので問題とはいえ、現在は主に新聞紙上という特定の領域でしか使われない(実際にそうなのかは分からないが)という立場で「新聞用語」扱いをするという態度は、現代語の辞典としてはむしろ正しいと言えよう。

*1:新聞が使う「高根の花」は「高嶺」の誤り? – 毎日ことばplus

*2:これはツイート内に使われている漢字の多くが「同音の漢字による書きかえ」などの基準により書き換えられたものになっている、というツッコミ待ちのネタである。なお、誰からも突っ込まれなかった。

*3:新明解国語辞典』第7版(電子辞書版)、第8版(小型版)のいずれにも〈「高根」は借字〉とある。また、「高根/高嶺」は併記してあっても、連語としては「高嶺の花」のみしか書かれていないもの(広辞苑第7版(電子辞書版)、デジタル大辞泉(2016年4月の更新版に基づく電子辞書版)、大辞林第4版(ビッグローブ辞書アプリ版))も多い。逆に、『三省堂現代新国語辞典』第6版だと「高根の花」の方で立項されている。

*4:〈さ夜更て富士の高根にすむ月ハ煙はかりやくもるなるらん〉IIIF Curation Viewer

*5:大槻文彦『新訂大言海冨山房(1956)

*6:Ibid. p. 8.