shaitan's blog

長文書きたいときに使う.

英語の曜日の名前


というわけで今回は英語の曜日の名前について。月の名前はこちら→英語の月の名前 - shaitan's blog

日曜日

Sunday < OE sunnandæġ (sunnanはsunneの単数属格)であるからsun's dayという意味。これはL diēs sōlisのなぞりで、これは更にGk ἡμέρᾱ Ἡλίουのなぞり。*1
英語と同じ西ゲルマン語のオランダ語ではzondagであり、「どんたく」はこれに由来する。

月曜日

Monday < OE mōnandæġ (mōnanはmōnaの単数属格)なのでmoon's dayの意。これも日曜と同じでL diēs Lūnae, Gk ἡμέρᾱ Σελήνης のなぞり。*2

火~土曜日

北欧神話の日本への先駆的紹介者として知られる山室静*3は、その著書『北欧の神話』の「はじめに」において〈ヨーロッパで使われる週の名は、チュールの日(火曜)、オーディンの日(水曜)、トールの日(木曜)、フリッグの日(金曜)と、四つまでがこの神話[=北欧神話、あるいはゲルマン神話]の神の名をとっている〉*4と書いている。「ヨーロッパで」はさすがに言い過ぎだとしても、ゲルマン語である英語は無論この例に漏れない。
曜日が神の名を冠するのは曜日と天体の対応によるものであるが、天体に対応する神の名前は神話体系によりそれぞれ異なる。〈ギリシア語で火星、水星、木星、金星、土星の5惑星にはそれぞれアレス、ヘルメス、ゼウス、アプロディテ、クロノスの神の名が付けられていた。[…]5惑星はラテン語ではローマ神話でのそれぞれの対応神名であるMars、Mercurius、Iupiter、Venus、Saturnusに変換されていた。[…]ロマンス語の土曜にはそれ[=Saturnus]は残らずSaturdayとして英語に残るだけとなった(英語で火水木金に使われた名前は、ローマ神話の神名に対応するゲルマン神話の神の名前である)。〉*5

火曜日

勝利を望むならば勝利のルーネを知らねばなりません。剣の柄の上に、あるいは血溝の上に、また、剣の峰に彫り、二度チュールの名を唱えなさい。

『古エッダ』「シグルドリーヴァの歌」6節*6

勝利のルーネとはᛏであり、この文字も軍神と同じくチュールと呼ばれる。〈チュール[…]の名はヴェーダのデイヤウス、ギリシアのゼウス、ローマ神話のジュピターと同系の語で[…]、チュールはもとはゲルマン族の天空の神として、最高位にあった〉*7が、〈オーディンにその地位を取って代わられた。行使する権利として、法の執行としての戦争を司る。〉*8 チュールは同じく軍神であるマルスと同一視されて火曜日に名前を残している。

水曜日

彼[=オーディン]はヴァルファズル(戦死者の父)とも呼ばれる。というのは戦場で倒れた者は一人残らず彼の養子だからだ。オーディンは彼らをヴァルハラとヴィーンゴールヴに送る。

『スノッリのエッダ』「ギュルヴィたぶらかし」20節*9

〈ウォーダンが風の神であり、飛行ひぎょう、疾行の神であり、また死霊の軍を率いるものであったところから、ヘルメースとメルクリウスに結びつけられたのであろう。〉*10
[2021.3.7 追記]
Wednesdayの発音や綴り(語源はWodenなのになぜWednesdayなのか、最初のdが黙字なのはなぜか)についてはこちらを参照(堀田隆一 "hellog~英語史ブログ " #1261. ''Wednesday'' の発音,綴字,語源)。

木曜日

ユピテル同様に雷神であるトールの日になっている。ユピテルと語根を同じくするチュールの日ではない。
〈トールはよく〈車のトール〉と呼ばれるが、それはトールが二頭の山羊に曳かせた車に乗って空を駆けるからだ。彼が車を走らせると岩は震え、亀裂を生じ、大地は車の下で燃える。その時、凄まじい響きが聞える。これを人々は雷鳴と呼んでいるのだ。〉*11

金曜日

〈かのじょ[=オーディンの妻フリッグ]は古くからローマのヴェヌス(ヴィーナス)にあたるとされて、〈ヴェヌスの日〉金曜日が、英独北欧などでは、かのじょの名をつけて呼ばれて、結婚するには特にめでたい日だとされてきました。〉*12 ということらしい。

*1:寺澤芳雄編『英語語源辞典(縮刷版)』研究社 1999, p. 1380. "Sunday".

*2:Ibid., p. 918. "Monday".

*3:筑摩書房 著者紹介ページ「山室静https://www.chikumashobo.co.jp/author/003428/

*4:山室静『北欧の神話』ちくま学芸文庫 2017, pp. 9f. [『北欧の神話』 筑摩書房 1982, pp. 3f.]

*5:小林標『ロマンスという言語 ――フランス語は、スペイン語は、イタリア語は、いかに生まれたか――』大阪公立大学共同出版会 2019, p. 146.

*6:谷口幸男訳『エッダ ――古代北欧歌謡集』新潮社 1973, p. 144.

*7:山室 op. cit., p. 147.

*8:クロード・ルクトゥ『北欧とゲルマンの神話事典 伝承・民話・魔術』篠田知和基監訳 原書房 2019, p. 192.

*9:谷口訳 op. cit., pp. 241f.

*10:泉井久之助訳注『タキトゥス ゲルマーニア』岩波文庫 1979, p. 61n.

*11:谷口幸男『エッダとサガ 北欧古典への案内』新潮選書 2017 [1976], p. 38.

*12:山室 op. cit., p. 183.