shaitan's blog

長文書きたいときに使う.

ヒクソス

twitterで話題になっていたこともあり、鈴木董[編]『帝国の崩壊』を少し読んだ。

ヒクソスというのは大学でも講義しますが、民族の名前でも何でもありません。ヒクソス自身がアジア系の支配者の尊称として自称したもので、「異国の支配者」という意味のヒエログリフが語源になっています。

帝国の崩壊(上), p. 35.*1

民族名ではないというのは初耳な気がしたが、忘れているだけであった。『詳説世界史研究』には〈ヒクソスはセム語系の複数の民族で、一部インド=ヨーロッパ語系の人々も含まれていた〉*2 と書いてある。
高校ではどういう扱いになってるかを見ていく。『世界史用語集改訂版』では〈中王国末期にエジプトへ流入し、王朝を建てたアジア系民族。〉*3と言い切っている。山川の教科書『新世界史』だと〈遊牧民のヒクソス人が〉*4と「人」までつけている。これに対し、東京書籍の『世界史B』の〈シリアの諸民族の混成集団であるヒクソスが〉*5という記述からは、民族の名前ではないということがはっきりと分かる。該当箇所の執筆者は明示されていないが、『古代地中海世界の歴史』の美術史以外の部分を書いた本村凌士ではないかと思われる。この本には、ヒクソスはセム語系、印欧語系、フルリ人から構成された混成集団であると書かれている。*6これも読んだはずだがやはり忘れていた。

*1:近藤二郎「『海の民』侵入による衰退説は真実か――エジプト新王国の崩壊」鈴木董[編]『帝国の崩壊(上)』山川出版社 2022, p. 35.

*2:木村靖二ほか[編]『詳説世界史研究』山川出版社 2017, p. 21.

*3:全国歴史教育研究協議会[編]『世界史用語集改訂版』山川出版社 2018, p. 8.「ヒクソス」

*4:岸本美緒ほか『新世界史 改訂版』(世B313)山川出版社 2017, p. 24.

*5:福井憲彦ほか『世界史B』(世B308)東京書籍 2016, p. 33.

*6:本村凌士ほか『古代地中海世界の歴史』ちくま学芸文庫 2012, p. 57.